木なのに弱気なのか
あっ、そうだ。
「なあ、姫様」
「何ですか?」
「姫様の名前ってなんて言うんだ?」
ん? なぜかわたあめさんが反応したぞ。
「知りたいですか?」
「いや、待て。結婚する相手にしか言っちゃいけないパターンだったら怖いからやっぱり知りたくない」
「そ、そんなことないですよー」
「姫様、目が泳いでいますよ」
「はぁ……嘘をつくのは難しいですね」
「やっぱりそうだったのか」
「はい。まあ、正しくは親族以外に知られてはいけない、ですね」
「なるほど。ところでこの馬車はどうやって動いてるんだ?」
「この馬車は神樹様からいただいたもので見えない馬が目的まで連れて行ってくれるんです」
「見えない馬?」
「はい、そうです。それは神樹様のエネルギーの塊なので神樹様がこの世界にいる限り動けます」
「ふーん……。自我はあるのか?」
「さぁ? でも、たまに私のそばにやってきますよ」
「見えないのによく分かりますね」
「昼間はうっすら姿が見えるので大丈夫です」
「なるほど」
「ヒヒーン!」
「どうやら到着したようですね。みなさん、覚悟はできていますか?」
「はい」
「もちろん」
「私はできてるけど、あんたはどうなの?」
「夏樹、それは姫様の目を見れば分かるぞ」
「目? ふーん、なるほどね。じゃあ、行こっか。お姫様」
「はい!!」
「神樹様! 私の話を聞いてください!!」
あっ! どうしよう! もう来ちゃった! あー! もうー! どうにでもなれー!!
「ヒーリング家の娘よ、話というのは何ですか?」
もうー! なんで上から目線なのよー! 私のバカバカバカー!!
「あなたはここにいるわたあめを使って色々と悪さをしていましたよね?」
「ええ、まあ」
「否定しないのですね。では、本日あなたの分体が夏樹様を襲った件についてお答えください」
「それはその者が邪魔だからです」
「邪魔? この者は今日この世界にやってきたばかりなのですよ? この者がこの世界を破滅に追い込む可能性があるのでしたら今すぐあなたのお力で元の世界に帰せばいいではありませんか」
「……のです」
「はい?」
「その者には効かないのです。私が何かしようとしてもその者の髪が全て無効化してしまうのです」
「なるほど。では、きちんと頭を下げて帰っていただくか友好関係を築くしかありませんね」
「まあ、そうですね」
「というのはあなたなら容易に思いつくはずです」
え?
「ま、まあ、そうですね」
「私たちがここに到着するまで何もしていないということは夏樹様がこの世界にいるとできない何かがあるのではないのですか?」
あ、焦るな! 私! まだなんとかなる!!
「そんなことはありません」
「では、なぜ急に雅人様をこの世界に招待したのですか? 今まで外の世界の住人を招待することをあんなに拒んでいたではありませんか」
「そ、それは……」
ま、まずい。
「神樹様、あなたはいったい何がしたいのですか? いえ、何に怯えているのですか?」
「……の目覚めが近いのです」
「え? 何ですか?」
「ニーズヘッグの目覚めが近いのです。アレは木の天敵です。私の力でもどうにもなりません」
「ニーズヘッグ?」
「おいおい、なんでユグドラシルの木の根を齧ってる蛇っぽいドラゴンの名前が出てくるんだよ」
「なるほど。そういうことでしたか。ということはあなたは雅人様にニーズヘッグとやらを退治してほしくてこの世界に招待したのですね」
「はい、そうです。その通りです」
「はぁ……雅人様、お許しください。神樹様の力は強大なのですがいつも弱気なのです」
「ご、ごめんなさい」
「木なのに弱気なのか」
「はい、そうです」
「そうか。まあ、そんなことだろうと思ってたよ」
「神樹様、言われてますよ」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「私、さっき襲われたんですけどー」
「あー! ごめんなさい! ごめんなさい! なんでもしますから許してください!!」
「ふーん……じゃあ、私とお兄ちゃんが結婚できるようにしてよ」
「そ、それはそちらの国の法律を変えないと不可能なのでちょっと難しいですね……」
「あぁん?」
「あー! 今のは忘れてください! あのドラゴンを退治してくれたらどんな願いでも叶えますからそんな怖い顔しないでください!!」
「言ったな? 約束はちゃんと守れよ?」
「は、はいー!」
「す、すごい……神樹様があんなに怯えてるところ初めて見ました」
「夏樹はそのへんの神も失禁するレベルだからな。というか、わたあめさんと姫様って親戚だったりする?」
「え? 私とわたあめは親戚じゃありませんよ。ねえ? わたあめ」
「え? あー、はい、そうです」
「そうですか。でも、なーんか似てるような気がするんですよねー」
「ま、雅人様! 夏樹様! アレがそろそろ目覚めるのでどうかよろしくお願いします!!」
「分かりました」
「約束忘れるなよ?」
「は、はいー!!」
「じゃあ、サクッと終わらせるか」
「うん♡」




