神樹様の本音
温泉で体をきれいにしていると神樹様の分体が千体ほど現れた。しかし、夏樹(僕たちの妹)の黒い長髪で全て倒されてしまった。
「わたあめ! これはいったいどういうことですか!」
「……神樹様の仕業です」
「わたあめ、それは本当ですか?」
「はい、本当です」
「そうですか。うーん、神樹様が動いたということは雅人様の妹はかなり強いということになりますね。ですが」
「何? 私が強いとダメなの?」
「いえ、ダメではありません。ただ神樹様がなぜ彼女を襲ったのか、その理由が分からないのです」
「神樹様って女?」
「え? あー、はい、そうです。女性です」
「ちっ……どこの世界でも女の敵は女ってことか」
「夏樹、顔が怖いぞ」
「え? あっ、ごめんね、お兄ちゃん。はい、笑顔ー」
「うん、いい笑顔だ」
「わーい! お兄ちゃんに褒められたー! 嬉しい!!」
「コホン……。わたあめ、私たちを神樹様のところまで案内しなさい」
「危険です! 姫様に何かあったらどうするんですか!!」
「その時は雅人様と夏樹様になんとかしてもらいます」
「は? なんで私とお兄ちゃんがあんたの護衛しなきゃならないの?」
「これから神樹様と戦うからです」
「あんたの戦いに私たちを巻き込むの?」
「……逃げるんですか?」
「はぁ?」
「神樹様が怖いのであれば今すぐ帰っていただいて構いません。正直、雅人様がいればなんとかなりますから」
「こいつ……!」
「夏樹、お姫様の言う通りだ。帰りたいなら今すぐ帰っていいぞ」
「お兄ちゃん……。はぁ……やればいいんでしょ! やれば!!」
「ありがとうございます! では、共に参りましょう!!」
「姫様」
「何ですか? わたあめ」
「その……とりあえず服を着ましょう」
「そ、そうですね! そうしましょう!」
小さいのにしっかりしてるなー。えっと、神樹様は夏樹を警戒してて、わたあめさんは多分神樹様の使いだな。で、おそらく僕はこれから神樹様に何かされそうになる……と。うーん、この巻き込まれ体質はどうにかならないのかなー?
「着衣完了! わたあめ! 雅人様! 夏樹様! 私たちで神樹様にお仕置きをしましょう!!」
その直後、姫様の腹の虫が鳴いた。
「そ、その前に何か食べておきましょう」
「ですね」
「そうだな」
「お兄ちゃん、私を食べて♡」
「夏樹ー、そういうのは家でやれー」
「はーい♡」
夏樹はいつも通りだなー。よし、じゃあ神樹様の本音を聞いてみるか。
「……ど、どどどどどど、どうしよう! あんなの勝てっこないよ! あー! 私のバカバカバカ! どうしてあんなことしたのー!? あー、ダメだ。私きっと今日死ぬんだ。うん、そうだ、そうに違いない。でも、アレが目覚める前になんとかしないといけないんだよね……。あー! もうー! どうしたらいいのー!!」
あー、これはアレだな。本当はいい娘なのに人前だと素直になれない自分が嫌いなタイプだ。うーんと、こういう時は多分相手のペースに合わせた方がいいな。
「雅人様、おいしいですか?」
「うん、おいしいよ」
「おいしいけど、なんか色が変だよー」
「こら、夏樹。失礼だぞ」
「はーい」
「わたあめ」
「はい、何でしょうか? 姫様」
「あなたの黒い噂は前から耳にしていました。ですが、それはとても寂しいです。なのでこれからはぜひ協力させてください」
「姫様……」
「ちゃんと言葉にできるのすごいなー」
「そ、そうでしょうか? 私はただ自分の気持ちを素直に伝えただけですよ?」
「それができないやつもいるんだよ」
「そうなのですか?」
「うん、いるよ」
というか、もうすぐ会えるな。
「そうですか。でも、その方はきっと根は優しいのでしょうね」
正解。
「姫様はいい目をお持ちですねー」
「か、からかわないでください!」
「からかってなんかないですよー」
「お兄ちゃん! 私は? 私は?」
「夏樹もいい目を持ってるよ」
「だよねー」
「わ、私はどうでしょうか?」
「わたあめさんもいい目を持ってるよ」
「ありがとうございます。でも、なんだかこそばゆいですね」
「あははは! わたあめが照れてますー」
「て、照れてません!」
「たしかに照れてるな」
「照れてる照れてるー」
「もう! そんなにニヤニヤしないでくださーい!」




