幸せになる方法
幸せになる方法は色々ある。自分を褒めたり、おいしいものを食べたり、好きな人とデートをしたり、趣味に没頭したり……とにかく幸せになる方法は色々ある。しかし、ネガティブな人は自分や世界が嫌いというか不満があるため、なかなか行動に移すことができない場合がある。
「お前は僕を何だと思っているんだ?」
「私の最高の幼馴染!!」
「嘘をつくな。頼めば何でもしてくれるお人好しな幼馴染だと思ってるだろ」
「まあまあ、そう言わずに。このネガティブな男子生徒の相手をしてやってよ」
「なあ、羅々。それは僕が部室に来る前に言うべきじゃないのか?」
「そうだねー。ごめんねー。許してー」
こいつ、反省してないな。
「お前、きっといつか刺されるぞ」
「雅人になら刺されてもいいよ」
「はいはい。で? 君はなんでそんなに暗いんだ?」
「さぁ? どうしてでしょうね……」
「そうか。分からないのか。まあ、色々あってそうなってるんだと思うけど、いつまでもうじうじしてたらナメクジになるぞ」
「いいですね、ナメクジ。一生のんびりできそうで」
「だいたいの生き物の天敵は人間だから多分のんびりできないぞ」
「そうですねー。コウガイビルより人間の方がかなり厄介ですからねー。うーん、やっぱり人間は絶滅した方がいいですねー。あっ、そういえば僕も人間でした。あははははは」
塩じゃなくてそっちが出てくるのか。物知りだな。
「……ところで君はここに何しに来たんだ?」
「僕、幸せになりたいんです」
「ほう」
「でも、僕なんかが幸せになってもいいのかなーと思いまして」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、僕根暗ですしクラスの誰からも話しかけられないですし、というか僕なんか別にいてもいなくても誰も困らないですし、だから僕なんかが幸せになるべきじゃないんですよ」
「それがどうした?」
「え?」
「別にいいじゃないか根暗でもこの世にはいろんな場所にいろんな生き物がいるんだから」
「で、でも」
「クラスの誰からも話しかけられない? 別にいいじゃないか、読書でもして時間を潰せば」
「で、でも」
「それに君がいなくなったらきっと君の保護者やクラスの担任が困るぞ」
「で、でも」
「幸せになるべきじゃない? じゃあ、この『不幸になるバッジ』をつけるか?」
「い、いや、それはちょっと……」
「そうか。じゃあ、今すぐ幸せになれ」
「そ、そんなこと言われても」
「じゃあ、今から僕が半紙に『ある言葉』を書くからその言葉を朝起きたらすぐ言うんだ。分かったか?」
「は、はい、分かりました」
「羅々、習字セットを持ってきてくれ」
「はーい」
「……よし、できた」
「ありがとう……。これを毎朝言うだけで幸せになれるんですか?」
「心が元気になれば体も元気になるんだよ」
「そうなんですかねー」
「やってみれば分かるさ。墨よ、乾け!」
「はいはーい」
「え? 今の何ですか?」
「ただの手品だよ。これ、君にあげるから部屋のどこかに貼っておくんだよ。それと毎朝必ずありがとうと言うこと。いいな?」
「は、はい、分かりました」
「よろしい。じゃあ、解散!!」
「あ、ありがとうございました。では、失礼します」
「おう」
「いやあ、さすがですねー、雅人先生」
「誰が先生だ」
「いやいや、今の本当によかったですよー。もうね、全教員見習ってほしいです」
「はいはい。じゃあ、そろそろ帰るか」
「うん!」
その後、彼はクラスの物知り博士になった。まあ、要するにきっかけさえあれば誰でも幸せになれるということだ。




