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私が欲しがってるもの

 夏樹なつき雅人まさとの実の妹)は僕を僕の部屋まで運ぶと、僕の四肢ししを自身の黒い長髪で拘束した状態で僕がうつ伏せになるように、そっとベッドの上まで移動させた。


「あ、あのー、本当にやるんですか?」


「うん、やるよ。体のあちこちが痛い状態でお兄ちゃんをバイト先に行かせるわけにはいかないからね。ほーら、おとなしくしてて。マッサージできないからー」


 僕が手足をばたつかせると、妹は黒い長髪で腕と足の関節部分を固定した。

 こうなってしまっては、いくら彼が鬼の力を宿していようと脱出は困難である。


「まったく、お兄ちゃんは照れ屋さんだなー」


「照れてない! 僕は本当に大丈夫だから! だから、頼む! 今、体に触らないでくれ!」


 妹は彼の言葉に耳を傾けることなく、彼の太もも裏に腰を下ろした。


「えーっと、じゃあ、まずは腰からだねー」


「僕の話を聞けー!!」


 彼はそのあと、妹に体を好きなようにされた。


 *


「お兄ちゃん、大丈夫ー?」


「あ、ああ、大丈夫……だ」


 言えない。

 実の妹の手で絶頂を迎えそうになっていたなんて、絶対に言えない。

 この秘密は墓場まで持っていこう。


「え、えっと、それじゃあ、そろそろバイトに……」


「待って」


 夏樹なつきは僕をベッドに押し倒すと、僕の両頬に手を添えた。


「な、夏樹なつき。これはいったい……」


「ねえ、お兄ちゃん……。私、もうそろそろ欲しいものがあるんだけど、何か分かる?」


 彼が彼女から目を逸らすと、彼女は彼の眼球に指を突っ込もうとした。


「ちゃんと私のこと見てよ。じゃないと、潰しちゃうよ?」


「そ、それは勘弁してください」


 彼女は彼のひたいに自分のひたいをくっつける。


「なら、早く言ってよ。私が欲しがってるものを」


「え、えーっと、ぬいぐるみ……とかか?」


 彼女はじっと彼の瞳を見つめている。


「違ったか。えっと、じゃあ、本とかか?」


「違うよ。というか、買えるものじゃないよ」


 この世に買えないものがあるとすれば、感情とか記憶とか、そういう曖昧なものしかないのだが。


「えっと、僕との思い出とかか?」


「近いけど、ちょっと違うね。ヒントはお兄ちゃんの体の一部だよ」


 僕の体の一部?

 ま、まさか!


「し、心臓……かな?」


「そんなことしたら、お兄ちゃん死んじゃうよ」


 で、ですよねー。


「えっと、じゃあ、爪か? 指か?」


「そんなのいらないよ。というか、そんなのもらっても嬉しくないよ。爪なら、いくらでも生えてくるし、私のために色々してくれる指を切るのはもったいないしね」


 そ、そうなのか。

 じゃあ、これかな?


「た、体毛……かな?」


「私、そういう趣味はないよ。えっと、じゃあ、ヒントね。それは会話とか食事をする時によく使います」


 え? そ、それって、まさか。


「く、口……いや、くちびる……かな?」


「せいかーい。ということで、早速……」


 彼は彼女が最後まで言い終わる前に、彼女を突き飛ばした。


「じ、実の兄妹がそんなことするのは、おかしいだろ!」


「おかしい? じゃあ、義理の兄妹ならいいの? 血がつながってたら、どうしてそういうことしちゃいけないの? 誰がそんなこと決めたの? ねえ、教えてよ。お兄ちゃん。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」


 彼女の目から光が消えている。

 な、なんとかして正気に戻さないと!


「な、夏樹なつき!」


「なあに? お兄ちゃん」


 今は……こうするしかない!


夏樹なつきちゃん、お兄ちゃん困ってるわよー。自分の胸に手を当ててみて。自分が何をして、その結果どうなったのか、よく分かるから」


「今は鬼姫ききちゃんと話したい気分じゃないの。だから……早くお兄ちゃんと話をさせて」


 夏樹なつきは黒いオーラを放ちながら、彼の精神と入れ替わった鬼姫ききを睨みつけた。

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