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オレンジジュース

 それから、なんだかんだあって。


「そ、それじゃあ、また遊びに来ます」


「うん、またね」


 はぐれ死神の『リリナ・デスサイス』は夕方になるまで、ずっと鬼姫ききと話していた。

 彼女はリリナを見送る時、笑顔が引きつっていた。

 リリナは気づいていないどころか、鼻歌を歌いながら夕日に向かって飛んでいった。


「……あー、疲れたー。あの娘、どれだけあたしと話したいのよー」


 彼女は玄関でヘナヘナと腰を下ろす。

 座敷童子は彼女のとなりに座ると、オレンジジュースが入ったコップを差し出した。


「んー? あー、ありがとー」


「どういたしまして」


 鬼姫ききはそれを受け取ると、勢いで飲んでしまいそうになったが、自分のことを恨んでいる座敷童子が自分に優しくするわけがないと思った。

 彼女は指の皮を少しいで、その液体の上に落とした。

 すると、それは一瞬で蒸発してしまった。


「ねえ、これ飲んだらダメなやつじゃないの?」


「……ちっ……気づかれましたか……。さぁ? どうでしょうね」


 今、舌打ちしたわよね? こいつ。


「あたしはいいから、あんたが飲みなさいよ」


「いえ、私は結構です」


 こいつ、意地でもあたしに飲ませる気ね。


「まあまあ、そんなこと言わずに」


「本当に結構です。どうぞ召し上がってください」


 二人が爆弾の押し付け合いをしていると、夏樹なつき雅人まさとの実の妹)がやってきた。


「二人とも何してるの? それ、飲まないの?」


「ま、まあねー。だから、これは夏樹なつきちゃんにあげるよー」


 夏樹なつき鬼姫ききから例のコップを受け取ると、その中身を一気に飲み干した。(後頭部にあるもう一つの口で)


「うーん、なんかちょっと変な味ー。ねえ、童子わらこちゃん、今のって本当にオレンジジュースだったの?」


「それに少し手を加えたものですから、夏樹なつきさん好みではありませんね」


 どういうこと? もしかして、あたし以外は飲んでも大丈夫なの?


「へえー、そうなんだー。というか、早くお兄ちゃんと話したいから、鬼姫ききちゃんはもう引っ込んでいいよー」


「え? あー、そう。じゃ、じゃあ、またね」


 何なの? こいつ。

 ちょっと調子に乗ってない?

 鬼姫ききは苛立ちを表に出さないように我慢しながら、雅人まさとに体を返した。


「あー、なんか地味に体のあちこちが痛いなー。何でだろう?」


「お兄ちゃんは気にしなくていいよ。なんなら、私がマッサージしてあげようか?」


 屈託のない笑顔のように見えるが、僕の体を好きにできるチャンスを夏樹なつきのがすわけがない。

 よって、これはわなだ。


「いや、いいよ。これからバイトあるし」


 彼が身支度みじたくをするために、二階に上がろうとすると彼女は黒い長髪で彼を拘束こうそくした。


「まあまあ、そんなこと言わずに」


「いや、本当に大丈夫だから」


 彼が前に進もうとすると、彼女は彼を持ち上げて足が床につかないようにした。


夏樹なつきさん。僕は本当に大丈夫なので、下ろしてもらえませんか?」


いやですー。首を縦に振るまで絶対に逃しませーん」


 まいったな……いったい、どうすればいいんだ?

 あっ、そうだ。童子わらこに。


「それでは、私はそろそろ失礼します」


「あっ、ちょ、童子わらこ!」


 彼が彼女に助けを求めようとすると、座敷童子は彼を完全に無視して、台所に向かった。


「それじゃあ、お兄ちゃんの部屋に行こうかー」


「あっ、はい……」


 結局、彼は妹のペースに流されてしまったのであった。

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