時計の秒針 クロックン登場
私は時計の秒針が嫌いだ。いつも時が進んでいることを大袈裟に伝えてくるからだ。だからうちにはデジタル時計しかない。
「みんなおはよう! あっ、この部屋の時計壊れてたからしばらく秒針がある時計を置いておくね! じゃあ、今日も一日頑張ってね!!」
桂! 余計なことすんな!! あー! イライラする! なんであんなのがうちの社長なんだ!!
「秒読さん、なんか顔色悪いよ。大丈夫?」
「時折ちゃん……ごめん、私ちょっとトイレ」
「分かった。このこと部長に伝えておくね」
「うん、ありがとう」
さて、どうしたものかな。あの時計がある限り私は仕事に集中できない。うーん、どうにかしてデジタル時計を設置しないといけないな。
「チクタク! チクタク! ねえねえ、そこのお姉さん! もしかして今困ってる?」
「あんた誰? というか秒針動かすのやめて」
「はいはい。えっと、僕の名前はクロックン!! 時計の妖精だよ!」
「へえ、そうなんだ。で? 私に何か用?」
「僕がお姉さんの願いを叶えてあげるよ!」
「それってあんたがあの時計の代わりになってくれるってこと?」
「うん! そうだよ!!」
「そう。じゃあ、よろしく」
「分かった! じゃあ、明日お姉さんが出社するまでに入れ替わっておくね!!」
「分かった」
その日はずっとイライラしていたけど明日になればあの変な時計がなんとかしてくれる。しかし、現実は甘くなかった。
「何? これ……」
「あっ! お姉さん! おはよう!!」
「おはようじゃない! なんでこの部屋にいる人間の時間だけめちゃくちゃなのよ!!」
「あのねー、時計の針はね、誰にも止められないんだよ」
「私の質問に答えて!!」
「ちゃんと答えたよ。僕は時計の妖精だけど力を制御できないんだよ。だから、僕がその場にいるだけで人間とか物とかの時間がおかしくなって若返ったり老けたり新品になったり急に壊れたりするんだよ」
「なんでそんな大事なこと黙ってたのよ!!」
「人間はいつか死ぬ、物はいつか壊れる。それはこの世界の常識でしょ? そんな些細なことでいちいち腹を立ててたらストレスで頭がおかしくなっちゃうよ!」
「このバカ時計! 今すぐぶっ壊してやる!!」
「お姉さん、そんなことしたらこの部屋にいるみんなを元に戻せなくなるよ」
「じゃあ、どうすればいいのよ! 昨日私があんたにあんなお願いしなければよかったの?」
「まあ、そうなるね」
「あー! 腹立つ! でも、あんたを壊したらみんなを元に戻せなくなる。あー! もうー! 私はいったいどうすればいいのー!!」
「何もしなくていいです。あなたはそこでおとなしくしててください」
「あ、あんた誰? いつこの部屋に入ってきたの?」
「今さっきです」
「ほ、星の王! どうしてこんなところに!」
「クロックン、イタズラの時間は終わりだ」
「はーい!」
その直後、みんな元に戻った。それと同時に変な時計と見知らぬ少年がその部屋からいなくなった。
今でも私は秒針が嫌いだ。けど、あの不思議な出来事はたしかにあの日あの場所で起きていた。だからなのかな、私は私のままで生きていこうと思えるようになった。




