読書好きの四季ちゃん
いつも図書室で本を読んでいる女子高生がいる。彼女は童話、伝記、神話、サイエンス、ノンフィクション、歴史、地理、教育、政治、経済、宗教、料理、スポーツ、アート、音楽、趣味、旅行、絵本、コミックスなどジャンルを問わずいろんな本を読んでいる。
「ねえ、そこの君」
「……何ですか?」
この人、誰だろう。
「突然だけど、今週の日曜日僕とデートしてくれない?」
「いやです」
「そっかー。じゃあ、うちにある『竜山 龍水』先生のサイン本、なんちゃら鑑定団に出しちゃうね」
「その話は本当ですか?」
「うん、本当だよ」
「そうですか。では、今週の日曜日、保護者同伴であなたの家に行ってもいいですか?」
「うん、いいよ」
「分かりました。では、昼過ぎに噴水がある広場で合流しましょう」
「オッケー。じゃあ、またねー」
嫌な予感しかしませんね。一応、このことを彼に伝えておきましょうか。
日曜日。
「やっほー、来たよー」
「貴様か、今日娘とデートをするのは」
「はい、そうです。南場といいます」
「そうか。では、ゆくぞ。四季」
「はい、おじいさま」
はぁ……こういうのって今もいるのかー。面倒だなー。
「ここが僕の家です」
「ふむ、二階建てか」
「はいー」
「庭が少し狭いな」
「ですねー。でも、中は広いですよー」
「そうか。四季、ゆくぞ」
「はい、おじいさま」
庭が狭い? 広い方だろ!! おっといけない、感情が顔に出るところだった。我慢しろ、俺。もう少しで欲しいものが手に入るんだから。
「ここがリビングです」
「ほう、無駄に広いな」
こいつ……!
「おじいさま、今のは嫌味に聞こえますよ」
「そうか?」
「そうです」
そうだよ。
「そうか。すまん」
それだけかよ。
「ん? なんだ? 何か言いたいことでもあるのか?」
「い、いえ! 何も!!」
何してる! 小鬼ども! 早くこのジジイを殺せ!
「そうか。ところで私の友人のサイン本はどこにあるんだ?」
「え?」
「龍水はわしの友人なんだが、売れっ子作家のくせにあまりサイン会というのをやらなかったのだよ。まあ、要するにあいつの生きた証を私は欲しているのだよ」
「……だろ」
「え? なんだって?」
「そんなもんあるわけねえだろ! さぁ! 小鬼ども! このジジイを殺せ!!」
「……どうした? 何も起こらないぞ」
「あ、あれ? なんで? どうして?」
「ねえ、そこの君。こいつらはいつからここに住んでるのかな?」
「だ、誰だ! どこから入った!!」
「小鬼を二、三匹倒したら秘密の扉を教えてくれたよ」
「く、くそ! おい! 誰でもいいからこいつらをなんとかしろ!!」
「小鬼は全員倒したよ」
「ば、バカな! 一億はいたはずだぞ!?」
「雑魚が何匹いようと相手に恐怖を植え付けてしまえば攻略するのは簡単だよ」
「く、くそー!」
僕は彼が手に持っているカッターと僕のポケットの中にある消しゴムと入れ替えた。
「あ、あれ? な、なんだ? これ。どうなってるんだ?」
「今の殺人未遂だから通報するね。まあ、もう来てるけど」
「な、何なんだよ……何なんだよ! お前は!!」
「さぁ? それより自分の心配をした方がいいよ」
「く、くそー! こうなったらこの女を人質に!」
「小僧、わしの孫に何をするつもりなんだ?」
「ジジイ! そこをどけ!」
「そうか。では、先に謝っておくぞ、許せ小僧」
「はぁ? お前何言って……うっ!!」
彼はおじいさんの無言の腹パンで気絶した。その後、家の周囲で待機していた警察が家の中にぞろぞろ入ってきた。サイン本はなかったが小鬼たちの食べ残しがいくつか見つかった。地下にはコスプレさせられた少女が何人かいた。どうやら彼はおかず用の写真を自分で撮るために被写体を集めていたらしい。うーん、人の欲ってよく分からないなー。
「助けてくれてありがとう。お礼にこれあげる」
「しおりかー。しかも桔梗入り」
「桔梗は嫌い?」
「いや、嫌いじゃないよ。ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、またね」
「うん、またね」
「四季! 雅人はどこだ? お礼を言いたいのだが」
「もうここにはいません」
「そうかー。まあ、とにかくお前が無事でよかった」
「はい、彼のおかげでなんとかなりました」
いつかこの気持ちが届くといいな。




