物岩
長野県に物岩という不思議な岩がある。命を狙われている者がその岩の近くを通りかかると「殺されるぞ」と声を出し、命を救ったらしい。
「で、その岩がこれなんだって」
「へえ、そうなんだー」
大学の友達と一緒にその岩を見に行った時は特に何も起きなかった。けど、大学の美男サークルと美女サークルに所属している人たちがその岩の前を通るとちらほら「殺されるぞ」と岩に言われたらしい。それを聞いてキレた人たちがその岩を傷つけようとすると大量のカメムシに襲われたらしい。そのあとのことはよく知らないけど、何人か本当に死にかけたことと全員誰かのおかげで命拾いしたことは知っている。
「ねえ、もう一回あの岩、見に行こうよ」
「いいよー」
例の岩の周りには不良たちがいる。よし、帰ろう。
「今日こそぶっ壊してやる!」
「くらえー! 金属バットの嵐ー!!」
「はぁ……蛇神様、出番です」
え? なに? あれ……。
「呼んだー? あー、今日は男ばっかりなのか。うーん、まあ、いいや。それじゃあ、いただきまーす」
「た、戦え! 全員でかかれば勝てる!!」
いやいや、相手は十メートル以上ある蛇なんだよ? 勝てるわけないじゃん。
「毒霧発射ー」
「う、く、苦しい……」
「し、死ぬ……」
「大丈夫。しばらく動けなくなるだけだから。まあ、その間に食べられちゃうんだけどね」
「だ、誰か……助け……」
「蛇神様、もうそのへんでいいんじゃないんですか?」
「そうかなー?」
「こんなのでも誰かの子どもですからね、行方不明になったら心配してくれる人たちが少なからずいるんですよ」
「そっか。じゃあ、こいつらの存在をこの世から抹消しよう」
「蛇神様、怒りますよ?」
「じょ、冗談だよー。その代わりおいしいお肉たくさんちょーだい」
「はいはい」
「やったー! じゃあ、行こっか!」
「はい」
う、うわあ……なんかすごいもの見ちゃった。
「ね、ねえ、もう帰ろう」
「そだねー」
「あんた、今の見てなんとも思わないの?」
「え? うーん、因果応報というか自業自得というか触らぬ神に祟りなし?」
「まあ、そうね。じゃあ、帰ろっか」
「うん」




