とある文字
座敷童子は妹に「あなたはもう寝た方がいいです」と言った。
妹は二人きりで話したいことがあるのだということを察して、僕の部屋から出ていった。
「……知りたいことがあれば言ってください。私が知っている範囲でなら、答えることができます」
「えっと、じゃあ、僕の体は今、どんな状態なんだ?」
座敷童子の表情が曇る。
どうやら、あまり話したくないようだ。
「そう、ですね。まあ、最悪の一歩手前……とでも言っておきましょうか」
「えっと、その……もしかして、僕は死ぬのか?」
座敷童子はベッドに横になっている僕の手を握る。
「私が生きている限り、あなたは死にません。けれど、いつかは私の力でもどうにもならない時がやってきます。ですから、もうあんな無茶はしないでください」
「無茶? 僕はいったい何をしたんだ?」
記憶が曖昧になっているのは、本当のようですね。
「山羊さんの件は私の家の者たちがどうにかしてくれましたが、あなたの体の主導権が鬼姫の精神のものになった時、あなたは半ば無理やり主導権を取り返しました。その影響であなたの体は……」
「……なんだよ、最後まで言えよ。僕の体はいったいどうなったんだ? なあ、答えてくれよ、童子!!」
座敷童子は目に涙を浮かべながら、静かにこう告げる。
「あなたの体は……見た目と脳以外……鬼化してしまいました」
「なっ……! お、おい、ちょっと待てよ。いくら何でも、それはないだろ? なあ、嘘だと言ってくれよ。なあ、嘘だよな?」
座敷童子は首を横に振った。
そ、そんな……。
じゃあ、僕の体は今、ほとんど……鬼になっているのか?
「あなたが自分自身を人間だと思っているうちは、彼女に体を奪われることはありません。けれど、もし自分が鬼であると認めてしまったら、あなたは完全に鬼になってしまいます」
「……どうすればいいんだ?」
彼は上体を起こすと、彼女の顔を真剣な表情で見つめ始めた。
「どうすれば、僕は鬼にならずに済むんだ?」
「方法がないわけではありません。しかし、あまりオススメできるようなものではありません」
彼は彼女の両肩に手を置く。
「童子、教えてくれ。その方法ってやつを。じゃないと、僕は……」
「私は、例えあなたが鬼になろうとも、あなたのことを嫌いになったりしません。ですから、残りの高校生活を楽しんでください」
彼女は微かに震えている。
本当は僕に鬼になってほしくない。
けど、それを防ぐには僕自身が成長する必要がある。
お前はそれを僕にさせたくないから、そんなことを言ったんだろ?
「僕はやらずに後悔するのは嫌いなんだ。だから、教えてくれ。頼む……」
彼女は一度、口を閉じたが数秒後、ゆっくりと口を開いた。
「分かりました……。あなたがそこまで言うのなら、私は止めはしません」
「ありがとう。それで? その方法っていうのは、何なんだ?」
座敷童子は彼に背中を向けると、空中に『とある文字』を書いた。