真っ暗な世界
彼は真っ暗な世界で目を覚ました。
「ここは……どこだ?」
「どこだと思う?」
鬼姫の声が響き渡る。
どうやらここは現実世界ではないらしい。
「ここがどこかなんてどうでもいい。それより、童子はどうなったんだ?」
「生きてるわよ。まったく、あんたのためとはいえ、あんなになるまで戦うなんて、どうかしてるわよ」
何?
「おい、それはいったいどういうことだ?」
「え? もしかして聞かされてないの? あんたが鬼の力を制御するには精神的に成長する必要があるから誰かがピンチになるのを見せるっていうやつなんだけど」
なんだよ、それ……。
聞いてないぞ。
「もし、それが本当なら童子は自らその役をやってみせたっていうことになるぞ?」
「そうね。あたしもまさか提案した本人がそれをやるとは思わなかったわ」
何でだよ。
どうしてそこまで。
「まあ、多分、今回みたいにあたしの……あんたの体が目当てのやつらと遭遇した時に、あんたが鬼の力を使えないままだと対処し切れないから、それの対策でしょうね」
「そう、だったのか」
あいつの頭の中はどうなってるんだ?
もしかして、未来を見通せるのか?
でも、いくらあいつが文字使いでも、そこまでのことは……。
「ホント、文字使いって厄介よね。できないことなんて、ほとんどないんだから」
「そのほとんどの中に未来を見通せるっていうやつはあるか?」
あってくれ!
じゃないと、これから何が起こるのか、あいつは全部知ってるっていう仮説が生まれるから!
「ないんじゃない? というか、それくらいなら百々目鬼にだってできるわよ」
「ないのか……。分かった、ありがとう。それが分かっただけマシだ」
あいつとの接し方を少し変えた方がいいかな?
いや、でもそれすらも見通していたとしたら。
あー! もうー! 分からん!
とりあえず、ここから出よう!
「えっと、そろそろ帰りたいんだけど、どうすれば帰れるんだ?」
「え? あー、えーっとね、たしか戻り方は……戻りたいって強く思うこと……だったかな?」
曖昧だな。
まあ、いいや。
「分かった。ありがとな、鬼姫」
「どういたしまして」
その後、彼が無事に現実世界に戻れたのかどうかはまだ分からない。