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人面樹と俺と猫

 はぁ……結婚してぇなー。


「なあ、人面樹。俺が結婚できない理由を教えてくれないか」


「とりあえず痩せろ」


「そうかー。まあ、そうだよなー」


 とある山の中腹にいる人面樹はちゃんと話ができる。まあ、いつも人の顔の形をした花がたくさん咲いてるからだいたいの人は気味悪がって帰るんだけどな。


「じゃあ、痩せたら結婚できるのか?」


「胸ばかり見るのをやめろ」


「男なんだから仕方ないだろ!!」


「代わりに鎖骨を見ればいい」


「な、なるほど。じゃあ、これからはそうするよ。えーっと、他には何かないか?」


「ニートやめろ」


「俺は家事やってるからニートじゃねえよ!!」


「仕事しろ」


「仕事は……うーん」


「バイトしろ」


「バイトかー。一応、色々やってきたけどどれも長続きしなかったんだよなー」


「猫探しをしろ」


「え? 猫? うーん、なんか探偵がやってそうな仕事だな」


「いいからやれ」


「わ、分かったよ。えっと、じゃあ、掲示板見に行ってくる」


「ダンボールあった方がいいぞ」


「え? あー、そうだな。うーん、一応タオルを入れておくかな」


「早く行け」


「分かったよ。じゃあ、またな」


「ああ」


 数日後。


「おーい! 人面樹ー! 猫見つかったぞー!!」


「よかったな」


「ああ! あと猫の飼い主と仲良くなった!!」


「オスか? メスか?」


「女子大生だ! しかもめちゃくちゃ美人!!」


「よかったな」


「ああ! でも、俺、働いてないんだよなー」


「猫探しは人が猫を飼わなくなるまでなくならない仕事だ」


「えっと、それってこれからも猫探しをしろってことか?」


「そうだ」


「そうか。分かった。俺、これからも猫探しやるよ!!」


「おう」


 数週間後、彼は少し痩せた。


「なあ、人面樹」


「なんだ?」


「俺、就職しようと思うんだ」


「猫探しはやめるのか?」


「いや、やめないよ。でも、やっぱり収入がないと色々困るだろ?」


「そうか。よし、じゃあ就活しろ」


「うーん、でも、フルタイムきつそうだなー」


「事務や研究職なんかどうだ?」


「事務かー。うーん、パソコンで資料作るより動画作る方が好きだからなー」


「お前、動画作れるのか?」


「ああ、作れるよ」


「ゆ○くりは?」


「作ったことあるよ」


「なんでそれをもっと早く言わなかったんだ?」


「いや、お前が猫探ししろって言うから」


「そうか。じゃあ、猫動画で稼げばいいじゃないか」


「猫動画かー。猫探ししてる動画でもいいかな?」


「いいと思うぞ。それから顔出しはしなくていい。あと、ちゃんと編集しろ」


「分かってるよー。俺の顔を全世界に見せたくないもん」


「よし、じゃあ、行け」


「分かった!」


 数ヶ月後、彼は猫探し動画投稿者になってすごく儲かった。しかし。


「なあ……人面樹」


「なんだ?」


「例の女子大生……いや、元女子大生が俺以外のやつと結婚したんだが俺はこれからどうすればいいと思う?」


「相手は?」


「石油王だってさ」


「今時、そんなのいるのか?」


「いるよ! はぁ……これからどうしよう」


「なあ」


「ん? なんだ?」


「お前、最近鏡見たか?」


「いや、見てない」


「見ようとしてないだけだろ。とりあえず今日帰ったら鏡見てみろ」


「お、おう、分かった」


 次の日。


「おーい! 人面樹! 俺の顔、前よりマシになってたよ!」


「だろうな」


「だろうなって、お前もしかしてそのことずっと前から知ってたのか?」


「ああ」


「なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ!!」


「言う必要がないと思ったからだ」


「じゃあ、なんで昨日俺にそのことを教えたんだ?」


「お前が落ち込んでいたからだ」


「人面樹……お前……」


「泣くのか?」


「な、泣くわけないだろ! え、えーっと、俺はこれからどうすればいいと思う?」


「猫探しをしろ」


「またか! お前、ホント猫探し好きだなー」


「お前もそうだろ?」


「まあなー」


「にゃあ」


「おい、その猫はなんだ?」


「え? あー、例の女子大生が飼ってた猫だよ」


「そうか。それで? なぜお前が世話をしているんだ?」


「石油王が猫アレルギーでな、元女子大生が俺にこいつを預けたんだよ。石油王が死んだら迎えに来るってさ」


「よかったじゃないか」


「ああ!」


「にゃあ♡」


「懐かれているようだな」


「まあなー。おー、よしよし」


れ鍋にぶただな」


「え? なんだって?」


「いや、なんでもない。それで? これからお前はどうするんだ? 結婚するのか?」


「いや、結婚はもういいよ。こいつの面倒見ないといけないから」


「そうか。じゃあ、もうここに来る必要はないな」


「いやいや、お前がいなかったら俺は今でもデブでブサイクだったと思うぞ?」


「たしかに」


「だろ? だからさ、これからもよろしく頼むよ」


「分かった」

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