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琴古主のコンサート

 琴古主ことふるぬし。破損し使われなくなった琴に目や口が生え、糸が髪のように動くようになった妖怪である。


「へえ、ホールで琴古主が演奏会やってるのか。よし、聞きに行こう」


 琴古主の演奏は聴衆の心身を癒やしている。心地よい音色だなー。しかし、それは演奏中なのにホールで大声を出す者によって台無しになった。


「そこの妖怪! お前は俺の琴線に触れた! だから今日がお前の命日だ!!」


 どうやら退治屋らしい。うーん、そういうのは演奏が終わってからにしてほしいなー。


「死ねー! 琴古主ー!!」


「『普通の結界』」


「な、なに!? くそ! ここから出せ!!」


「あなたに一つ言っておきたいことがあります」


「なんだ!!」


「さっきあなたが言った『琴線に触れる』は誤用です」


「な、なんだと!?」


「本来の意味は心が動かされ、深く感動することまたは共鳴することだそうです。まあウサギは寂しいと死ぬとか役不足とかそういう誤った知識をいつまでも正しいと思っていそうなあなたに言っても無意味だと思いますが」


「え? ウサギは寂しいと死ぬんじゃないのか?」


「では、なぜウサギは小屋から脱走するのでしょう」


「あー、たしかに。じゃあ、役不足は? 俺は力不足みたいな意味だと思ってるが」


「違います。本来の意味はその役では満足できない、もっといい役にしてくれ的な意味です」


「そうなのかー」


「ということであなたは明日になるまでそこでおとなしくしててください」


「はぁ!? なんでそうなるんだよ! おい! とっととここから出せ! さもないと!」


「『防音』。琴古主、演奏の続きを頼めるかな?」


「うむ」


「よかった。それじゃあ、よろしく頼むよ」

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