気絶
鬼姫と座敷童子を止められる者はいるのか。
今この場に、それができるとしたら、彼しかいない。あくまでも可能性の話だが今、鬼姫の精神は雅人の体を一時的に借りている。
そのため、体の持ち主である彼が一瞬でも彼女の気を自分に向けさせることができれば、あるいは……。
「もうあなたの役目は終わりました! 早く引っ込んでください!」
「無理。あたし、もうこいつの体で生きていく」
はぁ!? ちょ、お前、勝手に決めるなよ!
その体は僕のなんだぞ!?
うるさいわね。だいたい、あんたが生きていられるのはあたしのおかげなんだからね。
おい、ちょっと待て。
それはいったいどういう意味だ?
さぁ? どういう意味でしょうね。
彼女はそう言うと、座敷童子を蹴り飛ばした。
「あれ? もしかして、死んじゃった?」
「この、くらいで……死ぬわけ、ないでしょう。私は雅人さんの両親に、もしもの時は全力で彼を守ると誓ったのです。こんなところで……終わるわけにはいきません!」
やめろ……もうやめてくれ。
僕の体を取り返すために、そんなボロボロになる必要なんて……。
ほんと、不思議よね。
もう霊力なんてほとんどないのに、よく戦えるわね。
おい……それは……本当……なのか?
だって、周囲の人間に気づかれないように常に結界を展開しながら戦ってるのよ?
いくら文字使いでも、そんなことしたら死んじゃうわよ。
なんだよ……それ。
じゃあ、童子は……。
多分、もうすぐ死ぬわよ。あと五分以内って、ところかしらね。
「あなたに勝つには……やはり、アレしかないですね」
「アレ? あー、文字使いの奥義ね。この前、使ってたわね。でも……それを使ったら、確実に死ぬわよ?」
童子が……死ぬ……?
嘘……だろ。
だって、あいつは僕なんかより、ずっと強くて戦闘経験も豊富で頭の回転だっていい。
「あなたを彼から追い出せるのなら、死んでも構いません」
「あっ、そう……。じゃあ、それを使う前に……殺してあげる」
鬼姫は座敷童子の首を掴むと、徐々に手に力を込めていく。
やめろ……。
もう遅いわよ、諦めなさい。
そいつは……僕のために……。
あたしは鬼。あんたは人間。力の差は一目瞭然。なのに、こいつはあんたを救おうとした。無駄なことなのにね。
無駄……なんかじゃない。
は?
僕は……いや……俺は!
今ここで! お前を……お前の力を支配する!
その直後、鬼姫の精神は彼の精神と強制的に入れ替わった。
「今だ! 童子! 俺を気絶させろ! あいつと俺は一心同体! 俺が意識を失えば、あいつも意識を失う!!」
「言われ、なくても! やりますよ!」
童子は彼の額に『気絶』という文字を書いた。
その直後、彼は意識を失った。
童子は彼の体を支えながら、ゆっくり膝をついた。
「まったく……もう少し、早くそうしてくださいよ」
彼女は彼の中にある霊力を吸い取ると、自分の額に『瞬間回復』と書いた。
その直後、彼女はすっかり元気になった。
「はぁ……。さてと……これからどうしましょうかね」
彼女はしばらくの間、彼の寝顔を見ながらこれからどうするのかについて考えていた。




