本体の位置
その日から白い金魚はいつも僕のそばにいる。透明化しているから姿は見えないが気配で分かる。まあ、妹と幼馴染の監視の目がすでにあるからあまり気にならないが。
下校中。
「夏樹、今日の晩ごはん何がいい?」
「ねえ、お兄ちゃん。最近、お兄ちゃんのそばに白い金魚いるよね?」
「え? あー、そうだな」
「今日の晩ごはんのおかず、それでいいよ」
「おう、分か……いやいや、普通にダメだ」
「なんで?」
「なんでって彼女は僕のそばにいるだけだからだよ」
「気に入らない」
「え?」
「お兄ちゃんは嫌じゃないの? ずっと監視されてて」
「ずっと前からそうだから全然平気だよ」
「そう。でも、私はそいつのこと嫌いだからそいつ殺すね」
「夏樹」
「何? 止めても無駄だよ」
「やるなら公園でやってくれ。道路でやったら車やバイク、民家が大変なことになるから」
「分かった」
公園。
「出てこい、金魚のフン」
「私は金魚の女王。フンじゃない」
「でも、お兄ちゃんのそばにいるお前は金魚のフンだろ?」
「そんなことない」
「あっ、そう!」
「固有空間、私を守れ」
「無駄だ! 私の髪は全てを無効化する! 貫け! 私の髪!!」
彼女の固有空間が一瞬で消滅する。うん、絶対敵にしたくないな。
「あなたの攻撃は私に届かない。だって、私はここにいないもの」
「お前は何も分かってないな。お前の分身がいくつあろうとどれか一つに私の髪が命中した時点でお前の分身は全て消えるんだよ。それとお前がどこにいようとお前が死ぬまで私の髪は攻撃するのをやめない。止める方法はただ一つ、私を殺すしかない。さぁ? どうする? 降参するか?」
「降参しない」
「はぁ?」
「私の本体は雅人の心臓の中にあるから」
「は?」
「え? そうなのか?」
「うん。あと本体の位置は常に変わってるから私を倒すには雅人を一度殺すしかないよ」
「ということは、君の本体ってものすごく小さいんだね」
「うん」
「ねえ、お兄ちゃん。少しチクッとしていい?」
「夏樹、そんなことしなくても自分の心臓くらい自分で潰せるよ。えい」
「え? ちょ、ちょっと待って! なんでそんなことするの!?」
「夏樹、今集中してるから静かにしてくれ」
僕はペットボトルを一度潰してから元に戻すのと同じことを心臓にした。これにより彼女の本体は心臓から追い出された。
「え? え? 待って。お兄ちゃんは今何をしてるの?」
「彼女の本体を僕の白血球たちが追いかけてるんだよ。よし、捕まえた! 夏樹、今から吐き出すから少し離れててくれ」
「え? あー、うん、分かった」
「うっ……はい、出た」
僕の手の平の上に吐き出された白い金魚は死にかけている。
「夏樹、これが彼女の本体だけど、どうする?」
「もういい。こんなやつに勝っても嬉しくない。お兄ちゃんの体の中で一生引きこもってていいよ」
「ありがとう。優しいね」
「違う。ただ興味がなくなっただけだ」
「そう」
「なあ、君の本体飲み込んだ方がいいか?」
「うん」
「そうか。分かった」
「雅人の体の中、あったかい」
「そりゃあ生きてるからな。よし、じゃあ、帰るか」
「うん」
「夏樹、帰るぞー」
「はーい」




