資格
山羊さんが雅人(鬼の力を宿した少年)を物理的に食べようとしていることに気づいた童子はそれを彼の前で暴露し、ついでに週末のデートに来るなと言った。
「私はね、頭に生えた『山羊の角』のせいで今まで辛い目に遭ってきたのよ。しかも体が成長するにつれて、何度も性的に食べられそうになった。だけど、そんな時、雅人がここにやってきた。鬼の力を宿した人間……。その力を私のものにすれば、今まで私のことを嘲笑ってきたやつらに復讐できる。だから、私は今日までいい子のフリをしてきた。けど、それも今日でおしまい。さようなら……」
その直後、山羊さんの背後に黒い影が現れた。
それは山羊さんを包み込むと、悪魔のような翼を生やした化け物になった。
赤い瞳。黒い影でできている体。先端が矢印のような形をした黒いシッポ。
そいつは僕と座敷童子に目を向けると同時に襲いかかってきた。
「それがあなたの答えですか!!」
座敷童子は拳に霊力を込めると、そいつのみぞおち目掛けて、それを打ち込んだ。
「ええ、そうですよ! これが私の答えです! だから、邪魔しないでください!!」
「いいえ、そういうわけにはいきません。彼の中にいる鬼にはまだ生きていてもらわないと、私が困ります」
おい! 鬼姫!
僕と入れ替わるか、僕に力を貸せ! じゃないと、二人とも……!
うるさいわねー、言われなくても止めるわよ。
えっと、じゃあ、行くわよ。
僕の中にいる鬼姫は僕の精神と入れ替わった。
その直後、鬼姫はニヤリと笑った。
彼女はそいつの背後に回ると、そいつの翼を引っこ抜いた。
「くっ……! お、お前、まさか!」
「ええ、そうよ。あんたが欲しがってる力の持ち主よ。ほらほら、かかってきなさいよ。あっ、でも、あたしを倒しちゃうとこの体の持ち主も死んじゃうわよ? それでもいいの?」
おい! 鬼姫!
何でそんなこと言うんだよ!
うるさい! あんたは黙ってて!
「寄越せ……その力を……私に……寄越せええええええええええ!!」
「それは別にいいけど、あんたはその器じゃないから無理よ」
鬼姫はそいつの腹に拳を打ち込むと、鬼の力の一部を流し込んだ。
すると、そいつは膝をついて倒れた。
その後、まるで何かに体を蝕まれているかのように悶え始めた。
「大きすぎる力は身を滅ぼす……。あんたが何度、生まれ変わろうと、あたしの力を自分のものにすることなんてできない。だって、その資格すらないんだから」
「鬼姫……あなたという人は……!!」
座敷童子の拳が彼女の顔面に刺さる前に鬼姫はそれを片手で受け止めた。
「どうしたの? 私なんか悪いことした?」
「なぜ彼女にあんなことをしたのですか! 威圧か服従で動きを止められれば良かったというのに!」
座敷童子の怒りが彼にも伝わってくる。
こいつは本気で怒っている。
けど、鬼姫はどうして笑っているんだ?
「そんなことしたら、すぐに終わっちゃうでしょ? だ・か・ら、できるだけ長く戦えるようにしてあげたのよ」
「この……戦闘狂が!!」
やめろ……やめてくれ……!
どうしてこんなことになるんだ!
僕はいったいどうすればいいんだ!