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水虎ちゃんの悩み

 あっ、水虎すいこちゃんだ。


「おーい! 川に異常はないかー!!」


 水虎ちゃんは僕の存在に気づくとこちらに歩み寄る。どうしたんだろう。なんか元気ないな。


「川に異常はないよ」


「でも、君にはあるようだね」


「え?」


「水虎ちゃん、何か悩みがあるなら言っていいんだよ」


「……あのね」


 *


 夕方……公園……。


「なあ、ガンちゃん。妖怪に石をぶつけた後、何事もなかったかのようにその場を立ち去る遊び、そろそろやめない?」


「うるさい! 俺に命令するな! 俺に命令していいのは俺より強いやつだけだ!!」


「そうか。じゃあ、命令するね」


「お前、誰だ! 俺たちに何か用か!!」


「最近の小学生は礼儀がなってないね。まあ、それは置いといて。君たち最近妖怪に石をぶつけて遊んでるんだって?」


「ああ、そうだ。それがどうかしたか?」


「が、ガンちゃん! 今の録音されてたら僕たち学校行けなくなるよ!!」


「うるさい! 黙れ! 俺が何をしても親父がなかったことにしてくれるからいいんだよ!!」


「そうか。じゃあ、君のお父さんの裏の顔を世間にバラすね」


「そんなことしても無駄だ! 俺の親父はお前なんかに絶対負けない!!」


「そうか。じゃあ、今から君の家に行ってもいいかな?」


「はぁ? なんでそうなるんだよ。あんまり調子乗ってると殺すぞ!」


「君は誰か殺したことあるの?」


「え?」


「人を殺すのは簡単だけど殺した後が大変だよ。死体は思ったより重いからね」


「お、お前、何言ってんだよ……」


「ん? 君は今から僕を殺すんだよね? あっ、もちろん仲間と協力して殺してもいいけど、どっちにしろ死体を隠さないといけなくなるよ」


「な、何マジになってんだよ。お前、頭おかしいぞ」


「君には言われたくないなー。水虎ちゃん、おいでー」


「う、うわあ! 出たー!!」


「が、ガンちゃん! 早くなんとかしてよー!」


「うるせえ! お前ら、しばらく黙ってろ!!」


「水虎ちゃんの体は動物で例えるとセンザンコウ並みだから石が当たっても平気なんだけど、毎日そんなことやられたら心が傷ついちゃうんだよ。分かるかな?」


「うるさいなー! 妖怪には何をしてもいいって親父が言ってたんだから俺が親父と同じことしても何も問題ないだろ!!」


「そうか。君のお父さんはそんなことを言っていたのか。教えてくれてありがとう。これで君のお父さんは終わりだ」


「え?」


「えっと、とりあえず謝ってくれないかな? 水虎ちゃんは毎日君たちの的にされてるせいで嫌な気持ちになってるから」


「俺たちは悪くねえ! 悪いのはそいつだ! 俺はそいつを川から追い出そうとしてるだけだ!!」


「どうして追い出そうとしてるの?」


「そいつが気持ち悪いからだ! 全身ウロコで覆われてるやつが川で水遊びなんかしてたら気持ち悪くて近づけねえんだよ!」


「そうかな? 君たちの背後にいる目の化け物よりマシだと思うぞ」


『え?』


「どうもー! 『百々目鬼(とどめき) 羅々(らら)』でーす」


「ぜ、全身に目玉がある化け物だー!!」


「ガンちゃん! 助けてー!!」


「うるせえ! そういうのは一発殴ればいいんだよ!!」


「私の体に触ると私みたいになるよー」


「ヒィ!!」


「ガンちゃん! 早くなんとかしてよー!!」


「うるさい! 静かにしろ!!」


「早く謝らないとそいつと同じになるよ。ほら、早く水虎ちゃんに謝って」


「うっせえ! 黙れ! お前、もう死ねよ!!」


「お前が死ねよ」


 な、なんだ? 髪のおばけか? いや、違う。女だ。黒い長髪の女が俺を睨んでる。


「お前が死ねよ。手伝ってやるから」


「な、なんだよ、何なんだよ! お前は!!」


「お兄ちゃんの妹だ」


「妹? こんなのがこいつの妹なのか?」


「はい、終了。お前の人生終了。だよね? お兄ちゃん」


「え? な、なんだよ、俺なんかしたか?」


「水虎ちゃん、こいつ君に謝るつもりないみたいだから少し痛めつけるね」


「ダメ。それじゃあコレと同じになる」


「そうか……そうだな……。水虎ちゃんの言う通りだ。命拾いしたね。君たちもう帰っていいよ」


「や、やった! 助かった!」


「ありがとうございます! では、僕たちはこれで!!」


「あっ! こら! 待て! お前ら俺の手下なんだから勝手に帰るなよ!!」


「あっ、そうだ。ガンちゃんだっけ? 今日は家に帰らない方がいいよ」


「うるせえ! 俺に命令するな!!」


「あっ、そう……」


「お兄ちゃん! 早く帰ろう」


雅人まさとー、疲れたからおんぶしてー」


「いやだ」


「えー、なんでー」


「私も疲れた。川までおんぶして」


「いいよ」


「ちょっとー! なんで幼馴染の私じゃなくて水虎ちゃんをおんぶするのよー!!」


「お前がいつも僕に厄介ごとを押し付けるからだ」


「なるほどー。でも、やめてあげなーい。これからも頼りまくりますー」


「だろうな」


 少年が帰宅すると家にはマスコミが押し寄せていた。

 少年は自分の名前を何度も呼ぶ父親の表情を見て、なんとなく察した。家に帰ったら殺される。この殺意は本物だ。絶対に逃げられない。少年はその場から逃げ出した。逃げて、逃げて、とにかく逃げた。


「はぁ……はぁ……はぁ……。も、もう走れない」


「だから、言ったのに」


「お、お前は! 全部、全部お前のせいだ! お前のせいで俺の人生めちゃくちゃだ!!」


「全部ではないよ。だって、君が僕に色々しゃべったからこうなったんだよ? 全部僕のせいにするのはやめてほしいな」


「うるさい! お前さえ……お前さえいなければ俺は!!」


「じゃあ、どうする? 今すぐ水虎ちゃんに謝る?」


「謝るわけねえだろ!」


「じゃあ、マスコミに君の居場所を教えるね」


「や、やめろ!」


「え? なんで?」


「い、今はダメだ。いや、しばらく……いや、一生」


「そんなに待てないなー」


「そ、そうだ! お前、俺の手下になれ!!」


「河川敷に例の人物の子どもがいます」


「ま、待て! SNSに投稿するな! 親父に殺される!!」


「そうなのか。じゃあ、今すぐ水虎ちゃんに謝ろうか」


「俺は誰にも頭を下げるつもりはねえ! だから、俺は謝らない!!」


「今、君のお父さんに君の居場所を教えた」


「え?」


「もうすぐ来るってさ」


「う、嘘だ」


「本当だよ。ほら、ヘリの音がする」


「あ……ああ……お、おしまいだ。親父に……殺される」


「悪いことをしたら謝る。これができないと今回みたいなことになるってこと分かった?」


「……ああ」


「そう。水虎ちゃん、おいで」


「うん」


「はい、どうぞ」


「……なさい」


「え? なんだって?」


「ごめん……なさい。俺、何度も……石投げた。もう、しません。だから……許してください」


「よくできました。ほら、見て。水虎ちゃん、笑ってるよ。許してもらえてよかったね、ガンちゃん」


「あ、ああ……。でも、もう遅い。俺は親父に殺される」


「大丈夫。今から僕がなんとかするから」


「なんとかって……お前、そんなことできるのか?」


「まあね。それじゃあ、始めるよー。時間よ、巻き戻れ!!」


 僕は今回の事件に関わっている妖怪とガンちゃんの記憶を保持した状態で時間を巻き戻した。


「ごめん! 俺が悪かった! 許してくれ!!」


「え? あー、じゃあ、僕も。ごめんなさい」


「ごめんなさい!!」


「うん、いいよ」


 そう、それでいい。悪いことをしたら謝る。それができないと困るのは自分なんだよ。みんなも気をつけてね。

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