提灯おばけ
最近の子どもは昔ほど驚いてくれない。提灯おばけは百鬼部の部室で大きなため息を吐きながら真っ赤な舌を出す。
「というか、最近の子どもは提灯すら知らないんじゃないか?」
「そうなんだよー。はぁ……ボクはきっといずれ誰の記憶からも忘れられていくんだ」
「僕は君のこと忘れないよ」
「ありがとう。でも、もういいよ。どうせ誰も怖がってくれないんだから」
「お化け屋敷って今でも子ども来てるの?」
「来てるけどボクを見て驚いてくれる子どもはもういないんだよ」
「じゃあ、別のお化け屋敷に行けばいいじゃないか」
「ボクを見て驚いてくれる子どもがたくさん来るお化け屋敷なんてこの世に存在しないよ」
「そうか。じゃあ、驚かせ方を変えてみよう」
「どうやって?」
「今まではきっと君がほとんど明かりがない部屋のどこかから現れて舌を出すっていうやり方だったと思うんだ」
「そうそう」
「でも、子どもたちはもうそれには耐性がついてるんだよ」
「そうなの?」
「同じ話を何度も読んでると先の展開を知ってるから何が起こってもあんまり驚かないだろ? だから、これからは照明を全部消してもらってから子どもたちの前に君が出ていけばきっと驚いてくれるよ」
「なるほど」
「まあ、いずれそれにも耐性がつくからまた違う方法を考えないといけないんだけどね」
「いいよ! それで全然いいよ! ありがとう! これで明日から久しぶりに子どもたちの悲鳴が聞けるよ!!」
「ほどほどになー」
「うん!!」
提灯おばけは空中でスキップしながら部室から出ていった。誰の記憶にも自分に関する情報がなくても記録が残っていればそれはまだ死んでいないのと同義だよ。きっとね。




