蝶化身になった幼女
犯人は蝶化身だった。彼女は生前蝶が好きで蝶を見ると見失うまで追いかける癖があった。そのせいで車に轢かれて亡くなったが彼女の両親は遺体を山に埋めた。なぜならば習い事や勉強より蝶に関心があった彼女をよく思っていなかったからだ。しかし、蝶たちにとって彼女は特別な存在だった。何度も人間たちに駆除されそうになっていた時、彼女だけは自分たちを愛してくれたからだ。蝶たちは彼女を蘇らせるため各々の生命エネルギーを彼女に注いだ。蘇生は成功したが彼女が生き返ったことを彼女の両親に知られたらきっと彼女はもう一度死ぬことになる。そう思った蝶たちは殺られる前に殺そうと思い、白い蝶たちに『死の呪い』をかけてこの町に放ったのである。
「うーんと……この娘の両親はまだ生きてるのか?」
『この町のどこかにいることは分かっている。けど、居場所が分からない』
「だからって広範囲に白い蝶を放つなよ」
『ごめんなさい。でも、この呪いは一分以内に死ぬことが確定している者にしか効かない』
「なんだと? それは本当か?」
『本当』
「でも、それだとこの娘の両親は殺せないぞ?」
『人が多いと探索範囲が広くなる。でも、人が少しでも減れば楽になる』
「それなら殺すより眠らせる方が良かったんじゃないか?」
『町の機能をできるだけ止めないようにするには眠らせるよりそっちの方がいいと思った』
「そうか。で? 両親は見つかったのか?」
『まだだ』
「分かった。じゃあ、探すの手伝うよ」
『本当?』
「ああ、本当だ」
『ありがとう。もし両親が見つかったらお礼に秘密の花園に招待する』
「それって遊園地みたいなものか?」
『理想郷みたいなところ』
「そうか」
僕は幼馴染の『百々目鬼 羅々』に連絡して一部始終を話した。彼女は自身の目の力で彼女の両親の居場所を特定しつつ両親の死体遺棄に関する証拠をかき集めた。両親は退治屋に頼んで自分たちの周囲に不可視の結界を張ってもらっていた。それは自分たちの罪を知っている者には見えなくなる特殊な結界だった。故に蝶たちは両親を見つけられなかったである。まあ、百々目鬼の目の力の前では無力なのだが。その日、僕たちは警察と共に彼女の両親の家に向かった。死んだはずの娘と再会した両親は彼女を見て化け物呼ばわりしていた。そう、両親はうっかり自白してしまったのである。こうして事件は無事解決した。
『約束通り、秘密の花園に招待する』
「え? 今から?」
『うん』
「明日以降にできないかな?」
『渡したいものがあるからダメ』
「そうか。じゃあ、それを受け取ったら帰ろうかな」
『……秘密の花園へようこそ』
「きれいな花がたくさん咲いてるな」
『まあね』
「で? 渡したいものってなんだ?」
『それは……これ』
「なんだ? それ。ホ○オウの羽か?」
『違う。これはいつでもここに入れる虹色の翅』
「へえ、永久パスポートみたいなものか?」
『そんな感じ』
「そっかー。ありがとな。じゃあ、元気でな」
『待って』
「ん? なんだ?」
『ここには蝶しかいない。だから』
「ちょくちょく会いに来てほしい、だろ?」
『うん』
「意外と寂しがり屋なんだな」
『一人でいるのは好きだけどずっと孤独なのは辛い』
「そうか。そうかもな。じゃあ、またな。かわいいお姫様」
『うん!!』
今の返事は蝶たちじゃないな。
「ああ、またな」
僕は彼女の頭を優しく撫でると秘密の花園をあとにした。




