リャナンシーの片思い
うーん、何かが足りない。でも、その何かが分からない。
「あなたに足りないのは休息よ」
「だ、誰だ!!」
「あら? もしかして私が見えるの?」
「な、なんだ! お前は!! 鬼か! 悪魔か!」
「違うわ、リャナンシーよ。それじゃあ、おやすみなさい」
彼はその場で意識を失った。彼女は彼が画家になる前からずっと彼のそばにいる。彼女は絵を描いている時の彼が好きだ。けれど、彼は絵を描き始めると完成するまで寝食を忘れてしまう。彼女は彼が倒れる前に今日のように強制的に眠らせ、体を休ませる。そう、彼女はリャナンシーっぽいことをあまりしていないのである。
「うーん、軽い。体重前より減ってない?」
彼女は彼をベッドまで運ぶと彼に自分の生命エネルギーを分け与えた。
「よしよし、いい子いい子」
彼女は彼の頭を撫でながら微笑む。その直後、彼女の背後に怪しい人影が現れる。それは十字架を振り上げると彼女の背中に突き刺した。
「ねえ、私何か悪いことした?」
「悪いことをしていないからこうなったのだ」
「そう。じゃあ、今から悪いことするわ」
「今から? この状態でお前に何ができる?」
「できるわよ。私は今までもそしてこれからもリャナンシーなんだから」
「ま、まさか! ま、待て! やめろ!!」
私はシッポを幼馴染の体に突き刺すと同時に彼女の生命エネルギーを吸い始めた。幼馴染の悲鳴が徐々に小さくなっていくのが分かる。けれど、私はそれをやめない。やめたら彼のお世話ができなくなるから。私は幼馴染の悲鳴が聞こえなくなるまでそれをやめなかった。
「ごめんなさい。でも、こうでもしないとあなたは私を諦めてくれないでしょ?」
私が彼と出会っていなければ望みはあったかもしれない。でも、私は後悔していない。彼が死んでも私はずっと彼のそばに居続ける。
「……泣か、ないで」
彼の寝言が誰に向けられているのかは分からないけど、タイミングが悪すぎる。
「誰も……泣いてないわよ……」
僕が美術館に飾られているその絵を見た時、なぜかそんな記憶が僕の脳内に送られてきた。
「『リャナンシーの片思い』か……。彼女は今も彼のそばにいるのかな?」
「……いるわよ」
「そうか。よかった」




