アンバーキャンサーとの対話
朝、僕が目を覚ますとほとんどの人類がカニになっていた。
「うーんと……これは夢かな?」
「違います。現実です」
「そうか……。なあ、童子。僕はこれから何をすればいいと思う?」
「とりあえず鳥取砂丘に向かってください。そこに親玉がいます」
「そうか。じゃあ、行ってくる」
「お気をつけて」
鳥取砂丘に着くとそこには大きなカニがいた。
「おーい、お前かー? ほとんどの人類をカニにしたのはー」
「私の名はアンバーキャンサー。私は全ての生命を救済するためにカニ以外の生命をカニにしている真っ最中だ」
「なるほど、カーシニゼーションか。えっとな、とある人物の有名な詩に誰もが生まれただけで百点満点みたいなことが書いてあるんだよ」
「そうか。では、なぜ争いは生まれるのだ?」
「それは自分たちの正義を信じているからだよ」
「なるほど。では、それはいつ終わるのだ?」
「うーん、そうだなー。人類が滅びるか、何かに滅ぼされるか、地球に追い出させるか……あとは誰かが止めるしかないかな」
「そうか。では、なぜお前は何もしないのだ?」
「僕が争いを止めても今度は僕を巡って争いが起きるだけだからだよ」
「そうか。では、人類をカニにしよう。カニになればそんなことにはならない」
「アンバーキャンサー、カニになっても争いはなくならないぞ」
「たった一つでたくさんの命を奪う兵器を使うよりかはマシだろう?」
「それはまあ、そうだが……。うーん、まあ、結局争いをなくすには争いをしても意味がない状態にしないといけないんだよなー」
「それはどういうことだ?」
「一人につき、一つ、その人の理想の世界を与える。こうでもしないと争いはなくならないということだ」
「ふむ、たしかにそれなら『この世界から』争いが生まれることはないな。よし、どうしようもなくなったらそれを試そう」
「そうならないといいんだが」
「そうだな。では、人類を元に戻すとしよう」
「あっ、ただ元に戻すだけではダメだぞ。自分がカニだった時の記憶を消しておかないと多分カニに戻りたくなるから」
「そうだな。よし、では、人類を元に戻そう。マキシマム・アンチ・カニ・ビーム!」
こうして人類は元に戻った。
うーん、本当にこれで良かったのかな? 人として生きていくよりカニとして生きていく方がいいって人にとってはかなりきついぞ、これ。
「お兄ちゃん、人は自分で考えて行動できる生き物だから自分のことは自分で決めさせた方がいいよ」
「夏樹……。そうだな。でも、助けてほしい時は助けてほしいと言ってほしいな」
「そうだね」




