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もうやめて……

 僕は人間の闇を使って人間たちを闇に変えていった。闇に変えられた人間は人間だった頃の記憶を全て失い、人を襲う闇となる。


「何……これ……」


「他人の不幸は蜜の味。でも、少量じゃ物足りない。だから、たくさんの人を不幸にしているんだよ」


「違う……私が望んでいるのはこんなんじゃ」


「違う? いやいや、同じだよ。君は老若男女問わずただ生きているだけの人々を不幸にして喜んでいたよね?」


「私の呪いは一過性のものだから、しばらくすれば治る。でも、これは違う! こんなの私は求めてない!!」


「求めてない? じゃあ、君はいったい何がしたいんだ? 他人を不幸にして、それで満足するのか? それとももっと過激なことをしてジワジワと人類を追い詰めていくのか?」


「私は……自分が何者なのか分からなかった。そんな時、あの文字使いが現れて私に文字の力の使い方を教えてくれた」


「そうか。じゃあ、力がある者は何をしてもいいんだな?」


「力がない者は力がある者に従うしかない。反抗すれば全てが終わる。どこに行こうと弱肉強食。こんな世界、滅びてしまえばいい」


「じゃあ、滅ぼそうか」


「……え?」


「人類……はもう滅びたから次は他の生き物を滅ぼすね」


「ちょ、ちょっと待って……私はそこまでするつもりは」


「君は老若男女問わず人々を不幸にしていた。それなのに他の生き物にはそれをしようとしない。どうしてかな?」


「そ、それは……」


「不幸なやつが増えれば増えるほど君は興奮するんだろ? だったら徹底的にやらないと。人間の闇ども、他の生き物たちも滅ぼしていいぞ」


「ま、待って!!」


「なんだ? まさか怖いのか?」


「怖い……私はお兄さんが怖い……」


「僕が怖い? 僕はただ君の望みを叶えているだけだよ。ほら、さっき君がかわいがっていた白猫ももうじき闇になる」


「……て」


「え? なんだって?」


「もうやめて……私はこんなの望んでない……私はただ自分が何者で文字の力がどれほどのものなのか試したかっただけなの。両親を人形にできる力、他人を不幸にできる力、自分に逆らう者を排除できる力……。そんな力があったらお兄さんも試したくなるでしょ? 自分や親族に酷いことをしてきた連中を不幸にしてスカッとしたいでしょ?」


「気持ちは分かるよ。僕の妹を化け物呼ばわりしたやつらがいたからね」


「お兄さん、妹がいるの?」


「いるよ。世界に一人しかいない僕の大切な妹」


「そう。えっと、お兄さんはそいつら殺したの?」


「ううん」


「どうして殺さなかったの?」


「僕が殺す前に死んだからだよ」


「え?」


「僕はね、そいつらが山姥がいる山に入ったところをたまたま目撃したんだ。一応、助けようとはしたんだけど、助けてもイノシシを素手で捕まえて頭からバリバリ食う妖怪に一生追いかけられるから死を先延ばしにするよりさっさと死んだ方がマシだと思ったんだ」


「それは……そう……だね」


「よかった、君は思ったより狂ってないみたいだね」


「え?」


「この話をしてもまだあれこれ言っていたら僕は君をどうにかして倒さないといけなかったから」


「そ、それっていつでも私をやれたっこと?」


「やるというか、封印してたね。君の正体がアレだから」


「アレ? アレって何?」


「それは僕の家で話すよ。さぁ、おいで。僕は君が何者だろうと受け入れるよ」


「待って。人類滅んだこと忘れてない?」


「え? あー、そうだったね。人間の闇どもー、元人間の闇を吸い出してやれー。他の生き物は文字の力でどうにかするからー」


『りょ』


「えっと、なんで人間だけ文字の力の対象外なの?」


「人間の闇どもはな、闇堕ちさせた主人の闇が大好物なんだってさー」


「うわあ……悪趣味……」


「君がそれを言うのか」


「お兄さんこそ」


「だなー」

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