かわいい! 好きー! 愛してるー!!
今、夏樹(この体の本来の持ち主の実妹)に憑依しているのは誰だ?
「邪魔だ! そこをどけ!! 『はじまりの針女』!!」
「嫌よ」
なるほど。今、夏樹に憑依しているのは彼女なのか。
「そうか。じゃあ、どけ! 希望のかけらは私のものだ!!」
「あら? もしかして知らないの? 希望のかけらは愛する者にしか力を貸さないのよ?」
「そ、そんなことはない! 雅人! 私と共に絶望を倒そう!!」
「雅人、私があなたを呼ぶまで私の髪の海の中で眠っていなさい」
「は、はい……」
「くそー! なぜだー! なぜお前の言葉だけ希望のかけらに届く!!」
「さぁ? 見た目が最愛の人だからじゃないの? それか似た者同士だからとか?」
「はっ! ま、まさか! 希望のかけらとお前のかけらを体内に宿す小娘が共鳴しているのか!!」
「そんなの私が知るわけないでしょ? で? あんたはこれからどうするの? さっさと野望を捨てれば助かるわよ」
『はじまりシリーズ』は創造主と黒と白以外に倒すことはできない。希望のかけらがあればいけるか? いや、無理だ。希望なら対抗できるかもしれないが、かけらでは無理だ。
「……分かった。降参する」
「そう。じゃあ、殺すわね」
「……ん? お前、今なんて……」
「『野望粉砕』」
「……!!」
その言葉を聞いた直後、私の野望は言葉通り粉砕された。
「これでよし。雅人ー、もう起きていいわよー」
「う、うーん……」
「おはよう」
「え? あー、おはようございます」
「おはようでいいわよ。あなたは私のお気に入りなんだから」
「え? あー、そうなのか。じゃあ、おはよう」
「うん、おはよう。あー、やっぱり肉体があるのっていいわね。あなたをいつでも抱きしめられる」
彼女は僕から離れようとしない。
「く、苦しい……」
「あら、ごめんなさい。でも、許して。私、この日が来るのをずっと待ってたの」
「そ、そうか。それより夏樹は今どうしてるんだ?」
「……眠ってるわ。あなたの名前を呟きながら」
「そうか。よかった」
「……羨ましい」
「え?」
「羨ましいわー。相思相愛……両思い……ツインレイ……。ホントあなたたちお似合いのカップルよ。さて、ここで問題です。私はやろうと思えば、いつでもあなたたちの関係を壊せます。なのに私はなぜかそうしていません。なぜだか分かる?」
「うーん、そうだなー。僕たちが空中分解するのを待っているから、かな?」
「違うわ。あなたたちのことを愛しているからよ」
「そうなのか。というか、あんたなんか僕たちの母親に似てるな」
「あら、私はあなたたちのもう一人の母親みたいなものなのよ?」
「そうなのか?」
「ええ、そうよ。だって、あなたたちが兄妹になるように誘導したのは私なんだから」
「そうか、そうだったのか。えっと、その、ありがとう、母さん。僕たちを兄妹にしてくれて」
「どういたしまして。というか、かわいい! 好きー! 愛してるー!!」
「く、苦しい……母さん、頼む、少し落ち着いてくれ」
「お願い! もう少しだけこのままでいさせて。ね? ね?」
「しょうがないなー。分かったよ、我慢するよ」
「ありがとう! あー、あったかーい。落ち着くー」
なんだかよく分からないけど義母に溺愛されていることだけは分かる。正直、暑苦しいけどもう少しだけこのままでいよう。僕は義母が満足するまでその場からできるだけ動かないよう努力することにした。




