三目八面
申山から逃げるように下山する人間が一人。
「な、何なんだよ! あの化け物は!!」
「キィヤァー!!」
「ひぃいいいいい! だ、誰か助けてー!!」
「『停止結界』」
僕はそれで人間と化け物の動きを停止させた。
「山霊ちゃん、そいつを山の麓まで移動させてくれ」
「わ、分かりました! えーいっ!!」
「結界解除。なあ、三目八面。人間が滅ぶまでこの山で眠っててくれないか?」
三つの目と八つの顔を持つ化け物は僕の体をいろんな角度から観察している。
「……ギィ」
「ありがとう。じゃあ、僕はこれで」
「ギィギィ」
「え? 話し相手が欲しい? うーん、じゃあ、僕が君の話し相手になるよ。ダメ、かな?」
「ギィ」
「そうか。分かった。じゃあ、三日に一度くらい顔を出すね」
「ギィー」
「うん、じゃあ、またね」
*
「や、やった! なんだかよく分からないが助かったぞ!!」
「よかったな、助かって」
「あっ! お、お前は! そうか! さっきの化け物はお前の仲間だな!! 見ろ! 全身傷だらけだ!!」
「その程度で済んでよかったな。それともう二度とこの山に登るな。またあの化け物に襲われるぞ」
「そうだな! お前がいる限り、この山は一生危険だ!」
彼はそのへんの石を僕の顔めがけて投げた。僕はそれを手刀で粉々にして彼を睨みつけた。
「ひぃ! ば、化け物!!」
「そうだ。僕は化け物だ。早くここから逃げないとお前の体はズタズタに引き裂かれるぞ?」
「ひ、ひぃー! お、お助けー!!」
「い、今の言い方はよくありません! 雅人さんはいい人です! 化け物なんかじゃありません!」
「山霊ちゃんはそうでも彼はそうじゃない。ただそれだけのことだよ」
「そんなの……そんなのおかしいです!」
「いいんだよ、それで。じゃあ、僕はこれで」
「待ってください! まだ話は終わっていません!」
「それ、長くなりそう?」
「はい!」
「そうかー。うーん……なあ、家に帰りが遅くなるって連絡してもいいかな?」
「はい! もちろんです!!」
「ありがとう。あっ、もしもし、夏樹か? うん、そうだ、僕だ。えっと、今日ちょっと帰りが遅くなる。理由はこれから長話しするからだ。え? 近くに女の子がいるかって? 分かってるくせに。大丈夫、話ししかしないよ。本当だよ、信じてくれ。え? あー、うん、分かった。今日は一緒に寝よう。じゃ」
ふぅ……。
「待たせたな。で? 話ってなんだ?」
「それはですねー」




