囀り石
囀り石は群馬の重要文化財である。大きさは約四メートル。昔は人の言葉を発していたが、とある旅人がそのことを知らず石に話しかけられた際に驚き、刀で石の角を斬りつけてしまったことにより、石はただの巨石になってしまった。
僕は家出中の白猫に頼まれてその石をどうにかして直そうとしている。
「どう? ダーリン。直りそう?」
「うーん、これはアレだな。人間には聞こえなくなっただけだな」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。よし、葛の力でこの石を直そう。復元光線」
「あっ! 斬り落とされたはずの石の角が元通りになった!」
「そうみたいだな。もしもーし、聞こえますかー?」
「人の子よ、そなたはいったい何者だ?」
「僕はただの高校生だよ。あっ、こっちは家出中の白猫だ」
「そうか」
「ダーリン、私おなか空いちゃった」
「そうか。じゃあ、帰るか」
「うん!」
「人の子よ、そなたに礼がしたい。何が欲しい?」
「え? あー、うーん、じゃあ、僕の正体について教えてくれ」
「私にはその権限がない。他のものにしてくれ」
「そうか。じゃあ、あんたの目的を教えてくれ」
「特にない。私は人々に情報を提供するだけだ」
「そうか。じゃあ、この世界を終わらせる方法を教えてくれ」
「いくつかあるが、一番簡単なのは……だ」
「そうか。で? それは今どこにあるんだ?」
「どこにもない」
「『今は』が抜けてるぞ」
「ん? もしやそなたはすでにアレがどこに現れるのか知っているのか?」
「さぁな。よし、そろそろ帰るか。じゃあな、囀り石」
「ああ」
「ダーリン! 抱っこしてー!」
「はいはい」
「わーい! やったー!!」
やつはこの世界を終わらせるつもりなのか? いや、違う。もしそうなら私にあんな質問はしない。ということは、その逆か。そうか、そなたはただのお人好しなのだな。今も昔も、そしてこれからも。




