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お前まだ羽化してないのか?

 昆虫が羽化するとしばらくブヨブヨしている。そのため幼虫の次に死にやすい状態である。そっちの羽化は知名度が高いがもう一つの羽化はあまり知られていない。


「なんだよ、お前まだ羽化してないのか? うちのクラスで羽化してないのお前だけだぞ?」


「……おかしいよ」


「え?」


「なんでみんな異変に気づかないんだよ! 人間が羽化するわけないだろ!!」


「何言ってんだ? 人間は羽化して仙人になるものだろ?」


「そうなるやつがたまにいるってことは知ってる。でも! 全ての人間がそうなるわけないだろ! なあ? そうだろう! みんな!!」


 や、やめろ……俺をそんな目で見るな……。俺だけ仲間外れなのか? いや、違う。俺は正気だ。おかしいのはみんなだ。


「おや? 君はまだ羽化していないようじゃの」


「お、お前は誰だ! いつからこの教室にいた!!」


「今さっきじゃよ。ふうむ、どうやら君は仙人になりにくい体質のようじゃな」


「な、何言ってんだよ、俺は仙人になんかなりたくない!」


「最初は皆そう言う。じゃが、羽化すると自然と仙人になりたいと思うようになるのじゃよ」


「そ、そうなのか?」


「ああ、そうだとも。さぁ、この桃でも食べて落ち着くといい」


「お、おう」


 おいしそうな桃だ……食べていいのかな?


「騙されるな、こいつは悪い鬼だ」


「え? そうなのか? というか、お前となりのクラスのブラコンじゃねえか! なんでこんなところにいるんだよ!!」


「私はお兄ちゃんに頼まれたからここにいる。さぁ、早くその桃を机の上に置け。それを食べると羽化するぞ」


「わ、分かった」


「さて、仙人のふりをして生徒を妖怪にしようとしている悪い鬼をどう料理してやろうか……よし、決めた、刺身だ」


「小娘! わしの邪魔をするな!!」


「私はな、昼休みになるとお兄ちゃんと一緒にお弁当を食べるんだよ。だが、今日はお前たちのせいでその時間がいつもより短くなってしまった。まあ、要するに私は今とても機嫌が悪いんだよ。だ・か・ら……私は今からお前にこのイライラをぶつけてスカッとする」


 調理開始……終了……。


「ふん! 小娘が! その平らな胸を空洞にしてやるー!!」


「おい、仙人もどき。その場から動かない方がいいぞ」


「黙れ! わしは無敵じゃ! って、あれー? なぜ、体がバラバラに……」


「だから言ったのに。さてと、さっさと事後処理してお兄ちゃんと一緒にお弁当を食べよう」


「は、ははは、お前、やっぱすごいんだな」


「私よりお兄ちゃんの方がすごい。事後処理開始」

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