あるもの?
朝、僕が郵便受けを開けると果たし状が入っていた。えーっと、送り主は……あー、ドリーム組のやつかー。
「えーっと、読んだな! よし! 開戦だ!! やー!!」
え? これで終わり?
「お兄ちゃーん! 一緒に学校行こう!!」
「おう」
「んー? それ、なあに?」
「果たし状だ。どうやらこれを読んだら強制的に戦わされるらしい」
「ふーん、そうなんだ。でも、半径十キロ圏内にそれの送り主っぽいやつはいないよー。お兄ちゃんを殺そうとしてるやつらはいるけど」
「何人だ?」
「三十人くらいいるよー」
「そうか。あっ、そうだ。おーい、ミスティー」
「なんだ?」
「今からあるものを盗んできてくれ」
「あるもの?」
「ああ、えっとな……」
「本当にそれでいいのか? 私なら五感や体の一部を盗むぞ」
「それより効果的だ。雑草の根っこを抜くようなものだからな」
「なるほどな。よし、では、盗もう!!」
「別に無理に盗む必要はないぞ?」
「宇宙怪盗にできないことはない! とうっ!!」
宇宙怪盗ロイヤルミスティーは僕の家の屋根の上までジャンプするとターゲットたちの元へ向かった。
「ねえねえ、お兄ちゃん。ミスティーに何を盗ませるつもりなの?」
「夏樹、殺し屋に一番必要なものはなんだ?」
「え? うーん、殺意かな?」
「それはあまりない方がいいものだ」
「え? あっ、そっか。殺意を察知されたら自分の位置がバレちゃうもんね。うーん、あっ! 分かった! いい武器だ!」
「まあ、それも大事だな。でも、それを使うには……」
「あっ! そっか! 『殺しの技術』がないとダメだね!」
「そういうことだ。ということでやつらはもうすぐ何も殺せなくなる」
「それって呼吸すらできなくならない?」
「大丈夫だ。それはやつらが何かを殺そうとしたら発動するから」
「そうなんだー。じゃあ、別の人にこいつを殺してほしいって依頼したらどうなるの?」
「意味不明なことを言うよ。明日世界が終わるかもしれないとかアルミ缶の上にあるミカンとか」
「なるほどー。あっ、SNSとかでターゲットに精神攻撃しようとしようとしたらどうなるの?」
「ターゲットが精神を病んで死ぬようなワードを打てなくなるから挨拶とか今日が何月何日何曜日だとか今日もいい日になりますようにとかしか書けなくなるな」
「へえ、すごいねー。モールス信号とかはどう?」
「ラブアンドピースとか明日は明日の風が吹く的なことしか打てない」
「すごい! 誰も殺せなくなるじゃん!!」
「そうだな」
「ん? じゃあ、自決は?」
「無理だ。事故や災害なら死ねる」
「そっかー。ねえ、それを全人類にしちゃダメなの?」
「夏樹、それだと人類滅亡するぞ」
「どうして?」
「命を奪う行為ができないからだ」
「あー、そっかー。生き物はみんな何かの命を奪って生きてるから殺せなくなると生きていけないんだ」
「そうだ。だから、今のところは全人類にやつらと同じことをするつもりはない」
「そんな日が来ないといいねー」
「ああ、そうだな」




