むにゃ?
朝。
いつものようになんとなく目を覚ますと、僕の背中に座敷童子が抱きついていた。
僕はお前の抱き枕じゃないのだが……。
まあ、いいか。
寝ている時くらい好きにさせてやろう。
けど、いつまでもこのままにしておくわけにはいかないな。
雅人は彼女の小さな手を握ると、その手を自分から離そうとした。
しかし、そううまくはいかなかった。
「……うー」
座敷童子はそう言いながら、彼を強く抱きしめた。
これはあれだな。
幼子が寝ている間も自分の大切な物だけは守ろうとするやつだな。
さて、どうしたものかな。
彼が困っていると、白猫が彼の部屋にやってきた。
「おはよう、ダーリン。あっ、もしかして邪魔しちゃった?」
「いや、別に。というか、僕の代わりにこいつを起こしてくれないか? このままだと遅刻になるから」
白猫はベッドの上に飛び乗ると、彼女の頬を肉球でフニフニと踏み始めた。
「……じゃまー」
座敷童子が片方の手で白猫を追い払う直前、白猫は彼にこう言った。
「今よ! ダーリン! 逃げて!!」
「了解!!」
彼がベッドから離れようとすると、座敷童子は彼の背中に『止』という文字を人差し指で書いた。
「なっ! く、くそ! 寝てても使えるのかよ! その力!」
彼女は『文字使い』である。
彼女が書いた文字は現実にさまざまな影響をもたらす。
もちろん、鬼の力を宿している彼の体も例外ではない。
「ダーリン!! もうー! いい加減にしてよー! というか、早く起きてよー!」
「むにゃ? ふ、ふわぁー。あー、よく寝た。ん? これはいったい何事ですか?」
彼女は白猫から一部始終を教えてもらった。
「なるほど。つまり、私の寝相が悪いせいで、こうなってしまったのですね。すみません、今動けるようにらしますね」
彼女が彼の背中に『解除』と人差し指で書くと、彼は動けるようになった。
「あー、良かった。もう一生動けないかと思った」
「私が死ねば文字の効力は消滅します。まあ、そんなことができるとすれば、あなたの母親くらいでしょうね」
え? 母さんって、そんなに強かったのか?
「さぁ、早く着替えてください。遅刻しますよ」
「え? あ、ああ、そうだな」
彼は身支度。
彼女は家事。
白猫は毛並みを整える。
夏樹(雅人の実の妹)は彼らの声で目を覚ます。
さぁ、今日も一日頑張っていこう。




