朝ごはん
目を覚ますと僕は妹の黒い長髪にグルグル巻きにされていた。
妹と一緒に寝るとかなりの確率でこうなるのだが、今日はいつもよりガッチリ巻きついている。
さてと、どうしたものかな。
まあ、とりあえず起こすか。
「おーい、夏樹ー。朝だぞー、起きろー」
「お兄ちゃん……好きー……」
妹はそんな寝言を言いながら、僕を抱きしめてきた。
大好きな妹に抱きしめられるのは非常に嬉しいし、ずっとこのままでいたいのだが、早くしないと遅刻してしまうため、そういうわけにはいかない。
「おーい、夏樹ー。頼むから、起きてくれー」
「お兄ちゃん……私のこと、嫌いなの?」
そ、そんなことはない! というか、嫌いになるわけがない!
だって、僕は……!
「あっ……お兄ちゃん……おはよう……」
「あ、ああ、おはよう。夏樹」
妹は寝ぼけ眼を擦りながら、僕の頭を撫でる。
「あれ? 童子ちゃんは?」
童子とは昨日の夜、なぜかうちにやってきた『座敷童子』のことである。
「そういえば、いないな。どこに行ったんだろう」
妹は僕を解放すると、僕の体が部分的に鬼化していないか確かめた。
「今日は……大丈夫……みたいだね……」
「ああ、そうみたいだな。よし、じゃあ、行くか」
妹はコクリと頷くと、僕が制服に着替えたのち、手をつないで一階のリビングに向かった。
*
「ん? なんかいいにおいがするな」
「本当だ……目玉焼きのにおいがする……」
僕たちがキッチンを覗くと、そこには割烹着を身につけた例の座敷童子がいた。
「あっ、おはようございますー。もう少しで朝ごはんできますよー」
「わーい……」
それは僕の仕事なんだが……。
うーん、まあ、いいか。
夏樹も喜んでるし。
いや、待てよ? こいつの作るごはんじゃないと食べたくないと夏樹が言い出したら、僕はどう生きていけばいいんだ?
「おい、童子。勝手に僕の仕事をするな」
「まあまあ、そんなこと言わずにー。ほら、タコさんウインナーですよー。口開けてー」
タコさんウインナーだと?
ま、まあ、肝心なのは味だ。
「……なんだよ、普通にうまいじゃないか」
「ありがとうございます。ほら、夏樹ちゃんも」
夏樹は彼女に背中を向けると、後頭部にあるもう一つの口でタコさんウインナーを食した。
すると、その口が。
「素晴らしい! いい腕してるねー!」
彼女を褒めた。
妹は『二口女』だが、味覚は人間とほぼ変わらない。
少し違うところと言えば、人間の肉もおいしいと感じてしまうことだ。
僕たちは朝ごはんを食べ終わると、僕は食器洗いを。
妹と童子は洗面所に行き、髪の毛の手入れをしていた。
さてと、今日も頑張っていきますか。