白い蝶
雅人が眠った後、座敷童子は彼の背中に抱きついた。
彼の温もりを感じたかったからだ。
彼女は彼より年上だが、座敷童子であるが故に見た目は幼い。胸も小さい。というか、膨らみかけだ。
まあ、そんな彼女も一応、女の子だ。
好きな人が近くにいたら、抱きしめたくもなる。
ずっとそばにいたいとも思う。
しかし、彼が起きている時に抱きしめてだなんて、言えない。
だから、こうして彼に気づかれないように彼の背中に抱きついている。
彼女は今、とても幸せ。
その証拠に、彼女はニッコリ笑っているよ。
とっても満足そう。
猫みたいにスリスリ頬を擦りつけてる。
可愛いね。可愛すぎるね。
あれれ? どうしたのかな?
童子ちゃん、そんなことしたら雅人くんが起きちゃうよ。
彼の首筋にキスしたいの?
それとも、噛みつきたいの?
どっちもダメだよ。
もしも、彼が起きちゃったら言い訳できないよ?
それでもいいの?
あっ、やめるんだ。けど、やっぱり何かしたいんだね。
でも、彼の安眠を妨げちゃダメだよ。
それくらい分かるでしょ?
えっ? 彼に自分のことを意識してほしいの?
それは彼が起きてる時に伝えるべきだよ。
まあ、それができたら苦労しないか。
まったく、恥ずかしがり屋さんだね、君は。というか、意気地なしだね。
おや? 今度は彼の耳を舐めたいの?
それ、普通に起きるよ?
え? 寝ているから大丈夫?
そんな保証は、どこにもないよ?
それでも、やりたいの?
なら、できるだけ音を出さないように優しくゆっくり舐めないといけないね。
え? そんなことできない?
それくらいできるようになりなよ。
ぬいぐるみでキスの練習をしてた時に、ついでにやっていれば良かったのに。
え? なんで知ってるのかって?
それは秘密だよ。
言ったら、君という存在がこの世から消されてしまうかもしれないからね。
それで? これからどうするの?
やっぱり彼に何かしたいの?
なら、彼を抱き枕にすればいいよ。
そうすれば、夢の中でもきっと彼が出てくるよ。
絶対ではないけど。
そう……。じゃあ、今日はもうおやすみ。
明日……というか、あと六時間以内に起きないといけないんだから。
彼女はコクリと頷くと、ゆっくり目を閉じた。
その直後、窓の外に白い蝶が現れた。
それは彼女に別れを告げるかのように白い光の粒を撒き散らしながら、月に向かって飛んでいった。