謎の生物 異獣登場
異獣は昔から新潟にいる。普段は山中にいて、たまに人家を訪れて食べ物をねだる。見た目は猿のようだが頭の毛が背中に垂れるくらい長い。食べ物をやると困った時に何かしてくれる。怪力かつ疾風のように駆ける。
「やあ、久しぶりだね、異獣」
「……!」
異獣は僕に抱きつき、その場で嬉しそうに鳴いた。
「最近どう? 山、荒らされてない?」
「……」
異獣が山頂の方を指差す。
「上に何かあるのか?」
「……」
異獣は僕の手を引いてぐんぐん山を登っていく。
「あー、なんか嫌な予感がする」
「……」
異獣が山の頂上にある……いや、いる木を指差す。
「なあ、なんで中央アメリカとか南アメリカとかにいるはずのヤテベオがこんなところにいるんだ?」
ヤテベオ。スペイン語で『私はすでにあなたを見ている』という意味の名前である。太く短い幹と長いツルの様な枝で人間や大型動物を捕食するらしいが実際に見た人は少ない。やつらにとっては人間もエサなのだから。
「……」
「分からないよなー。まあ、とりあえず駆除するか」
「ヤテベオ? あー、食人植物かー」
「そうそう、バ○オに出てくるあの……ん? なんでクズの妖精がここにいるんだ?」
「なあ、あいつあたしらの養分にしてもいいか?」
「あたしらって……まさかサボテンの妖精やミントちゃんにもあげるつもりなのか?」
「本当は五十メートルくらいにしてから食いてえけど、まあ今回は五メートルで勘弁してやるよ」
「そうか。じゃあ、よろしく頼む」
「よおし、じゃあ、行くぞー!! 食欲全開!!」
うわあ……クズの妖精がクズのツルを大量に出してヤテベオをツルの重みで圧死させようとしてる……。ヤテベオ、今回は相手が悪かったな。
「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
異獣はヤテベオの断末魔を聞くとほっと胸を撫で下ろした。
「よおし、じゃあ、今夜の晩飯はこいつにするかー」
「いいねー、天ぷらにしよう」
「わ、私はそんなものいりません!」
「ミントちゃん、好き嫌いは良くないよー。はい、あーん」
「や、やめてください! あなたの……サボテンのトゲが刺さりそうで怖いです!!」
「あー、ごめんねー。でも、怖がってるミントちゃんかわいい。よしよし」
「もうー! 子ども扱いしないでください!!」
「はいはい」
「雅人ー、あたしらもう帰るけどお前はどうする?」
「うーん、異獣と少し話してから帰るよ」
「そうかー。分かったー」
「……ねえ、異獣。アレはいつ頃から山にあったんだ?」
異獣は地面に落ちている木の枝を拾うとそれの先端で地面に文字を書いた。
「そうか、数日前か……。ありがとう、また何かあったらテレパシーで僕を呼んでくれ」
「……」
異獣はうんうんと頷く。
「よし、じゃあ、またな」
「……またね」
「あれ? お前、今……いや、いい。今のは聞かなかったことにするよ。じゃあな、異獣。また会おう」
異獣は僕が下山するまで僕に手を振っていた。また会えるといいな。




