異獣といい勝負だ
その日の夕方、砂浜に行くと金魚に手足が生えたような男性がいた。フジツボーを探している美食家らしいが正直珍獣にしか見えない。異獣といい勝負だ。え? 異獣がどんな妖怪か分からない? よし、じゃあ、明日その話をしよう。
「探し物は見つかったか?」
「少年……いや、まだだ。しかし、代わりにいいものが見つかったよ。少年! 君の体にびっしり生えているそのフジツボ! 私に譲ってくれ!!」
「いや、これ、あんたが探してるフジツボーのよだれなんだが」
「な、何! ということは君の近くにフジツボーがいる可能性が高いな!!」
「近くというか、僕の体の中にいるよ」
「そうか……。少年、あまりやりたくないが今から私は君を食べる! 許せ!!」
じゃあ、なんでよだれダラダラ垂らしてるんだよ。本当はあんまり罪悪感ないだろ……。
「フジツボー、お前の力少し借りるぞ」
「うん、いいよ。やっちゃって」
「ああ……。フジツボ光線、発射!!」
「うわああああ! な、なんだ! 私の体が! フジツボに!」
「フジツボーは寛大だからな。仲間になれば今までの密猟や密漁を許してくれるってよ。あー、あと歓迎もしてくれるぞ、よかったな」
「い、嫌だ! フジツボになんかなりたくない! 食べるのは好きだけど食べられるのは嫌だー!!」
「食材だってそうだよ。だって、食う側から食われる側になるんだから。さぁ、そろそろ時間だ。何か言い残すことはないか?」
「私はどんな姿になろうと美食家だー!!」
「そうか。実現できるといいな」
こうして美食家はフジツボになった。
「フジツボー、そろそろ時間だ。僕の体から出ていってくれ」
「……やだ」
「え?」
「やだ! やだ! 私、一生ここにいる!!」
「おーい、一人称が自分から私に変わってるぞー」
「お願い! 私を一生養って!!」
「本音がダダ漏れなんだが。じゃあ、せめて寝る時は出てくれ。毎朝全身にフジツボが生えてるのは気持ちのいいものじゃないから」
「うーん、じゃあ、寝る時は小人になるからそばにいさせて」
「僕はそれで構わないけど、夏樹に相談しないといけないなー」
「……おい、フジツボー。とりあえず私の前で正座しろ」
「え? なんで? どうして?」
「早くしろ。今夜のおかずにするぞ」
「ひゃ! ひゃい!!」
フジツボーは小人状態で僕の体から出ると夏樹(僕の実の妹)の前で正座した。
「一つだけでいいからこの場で答えろ。お前はお兄ちゃんと〇〇したいか?」
「え? いや、別に。私は世界一安全な場所が欲しいだけだよ。それに私は特殊個体だからやろうと思えば自分で産めるから別に星の王……あなたとお兄さんとそういうことをしたいわけじゃないよ」
「だが、恋人にはなりたいと」
「うっ! ま、まあ、そうだね」
「お兄ちゃんにはすでに娘が何人かいる。それでもいいか?」
「全然大丈夫! まったく問題ないよ!!」
「そうか。じゃあ、これからよろしくね、フジツボー」
「やったー! ありがとう! 夏樹ちゃん! 愛してるー!!」
「こら! 抱きつくな! フジツボ生えたらどうするんだ!」
「私が起きてる時は大丈夫だよー」
「本当か? 嘘だったら食うぞ?」
「嘘じゃないよー。あー、夏樹ちゃんの足すべすべしてて気持ちいい」
「いい加減に……しろー!!」
「あーれー」
夏樹の黒い長髪がフジツボーをはたき落とす。
「夏樹ー、フジツボーをいじめるとフジツボたちが怒るぞー」
「その時は私が全部狩り尽くす!!」
「生態系壊れるからやめた方がいいぞー」
「あー、そっか。じゃあ、半分くらい狩るね⭐︎」
「それもダメだ。降りかかる火の粉を払う程度にしておけー」
「はーい♡」




