こいつ、今日はよく吠えるな
次の日。僕が学校に行くとなぜかウメ(蠢くものと呼ばれているダンゴムシ型の妖怪。好物は命)を保護したことを知っている鬼人『山田 雅史』が僕に話しかけてきた。彼と話すのはいつぶりだろう。うーん、忘れた。
「おい! お前ならあいつを殺せるだろ! なんで保護したんだ!!」
「殺すという選択肢はもちろんあったよ。でも、蠢くもの……ウメは保護できそうだったから保護したんだよ」
「お前分かってんのか? あいつは野良犬や野良猫じゃねえんだぞ!!」
こいつ、今日はよく吠えるな。
「なあ、お前はどうしてそんなに興奮してるんだ? もしかしてお前の知人がウメの被害に遭ったのか?」
「違う! あいつは……あいつは俺の獲物を横取りしやがったんだ!!」
「あー、なるほど。つまり、お前はそのことをずっと根に持ってるんだな」
「そ、そうだよ! 悪いか!!」
「いや、別に。で? お前はウメをどうしたんだ?」
「今すぐ殺せ! やつはいつかお前にも手を出すぞ!!」
「大丈夫。そうならないように僕は昨日、ウメに暗示をかけたから」
「そ、そうか。で? どんな暗示だ?」
「この世で一番おいしい食べ物はソーセージだ、だよ」
「は? お前、ふざけてんのか?」
「いや、全然。えーっと、もうこの話終わりでいいか?」
「ま、待て! 今すぐ俺と戦え!!」
「お前は負けるのが怖くないのか?」
「俺に怖いものなんてねえよ! さぁ! かかってこい!!」
次があると思ってる時点でもうダメだよ。
「分かった。……逃げるなよ?」
「逃げる? 鬼人の俺が逃げるわけねえだろ!!」
「そうか。じゃあ……行くよ」
な、なんだ! やつの背後に何かいる! あれはなんだ! ち、地球だ。やつの背後に地球がいる!!
「お、お前が何者だろうと俺は負けねえ! うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「先に謝っておく。ごめん」
「……!!」
い、今こいつ……何……した? 俺は何をされたのか分からないまま意識を失った。その日の放課後、雅人が俺の顎を殴って脳を揺らしたことを知った。ダメだ、雅人に勝てる未来が見えねえ。でも、それは現時点での話だ。これからどうなるのかは分からない。よおし! 今日も地獄の特訓するぞー!!




