返し方
雅人と座敷童子は今、風呂に入っている。
「なあ、童子」
「は、はい! 何ですか!?」
湯船に浸かっている二人。
二人は今、向かい合っている。
まあ、彼女は若干、彼から目を逸らしているのだが。
「さっきのってさ……やっぱり、そういう意味なのか?」
「さっきの? あっ……」
座敷童子が玄関で彼に告げた言葉。
月がきれいですね。
「あ、あれはその……なんというか、そういう意味ではないというか」
「イエスなら『死んでもいい』とか『ずっと一緒に月を見てくれますか』とかで、ノーなら『私はまだ死にたくありません』とか『私は太陽の方が好きです』って言うんだろ?」
し、知ってたんですか。
しかも、返し方まで。
「え、えっと、まあ、そうですね」
「答えは……というか、僕の気持ちは今ここで伝えた方がいいのか?」
そ、そんなこと私に訊かないでください。
「こ、こんなところで言われても困ります」
「じゃあ、どこならいいんだ? やっぱり、僕の部屋か?」
できれば、ベッドの上で……って、私は何を考えているんですか!
相手は年下ですよ! そんなこと期待したらダメです! でも、欲を言えば……あー、もうー! いったい私はどうすればいいのですか!!
誰か! 教えてください!!
「童子、大丈夫か? 顔、赤いぞ?」
「そ、それは血の巡りが良くなっているからです!」
そうかな?
「そうなのか?」
「そうです!!」
何、怒ってるんだ?
いや、怒ってはないか。
ちょっと色々考えすぎてるだけかな。
彼は彼女の頭に手を置くとニコニコ笑いながら、彼女の頭を優しく撫で始めた。
「な、何ですか?」
「いや、童子の髪、きれいだなって」
そ、そんなこと今、言わないでください。
「べ、別にそんなことありませんよ。普通です」
「僕はさ、夏樹の黒髪以上にきれいな髪を見たことないんだよ。けど、お前の髪はそれに負けてない」
そ、それはつまり……。
「お前が嫌じゃないなら、僕は……」
彼女は彼の口を右手で塞いだ。
「夏樹さんが聞き耳を立てています。それ以上、何か言ったら許しません」
「そうか……。なら、そろそろ出よう」
シスコンの言葉なんて信じません!
というか、私のこの気持ちはやっぱり『恋』なんかじゃありません!
これは……そう、ただの家族愛……。
あれ? 愛って……何でしたっけ?
「童子、大丈夫か?」
「え? あっ、はい、大丈夫です!」
彼女がスッと立ち上がると同時に彼は彼女に背を向けた。
「どうかしましたか?」
「いや、その……お前、見た目は幼女だけど、僕より年上なんだからさ、前くらい隠せよ」
彼女は顔を真っ赤にしながら、風呂場を後にした。
彼は彼女がパジャマを着るまで、風呂場で体を拭いていた。