蠢くもの
やつは深夜になると目を覚ます。やつの好物は命。まずやつは少しだけ影を食べる。おそらく味見をしているのだろう。次に体の一部を食べる。体毛や皮膚、爪なんかを食べる。最後にやつは捕食対象を丸呑みにする。幸か不幸か移動速度はダンゴムシ並みであるため逃げようと思えば逃げられる。だが、やつに狙われて生き延びた者はいないため深夜に外に出かけるのは危険だ。目撃者が何人かいるが彼らは必ず三日以内に行方不明になる。おそらくやつを目撃した時点でやつの標的になっているのだろう。やつがいつからいて、どこからやってきたのかは誰も知らないがやつの黒い体と動く様子が印象的であるため人々からこう呼ばれている。『蠢くもの』と。
「なあ、童子。こいつが噂の『蠢くもの』なのか?」
「はい、そうです」
「うーん、ただのでかいダンゴムシにしか見えないぞ?」
「ですが、これがこの町にやってきたせいで深夜に出歩く人が減っています」
「いいことじゃないか」
「いいことばかりではありません。最近、深夜も営業している店の売り上げが下がっています」
「なるほどな。で? 僕はこいつをどうすればいいんだ?」
「簡単です。これをうちで飼えばいいのです」
「え? 飼う?」
「はい、そうです」
「いやあ、さすがに危なくないか?」
「残機無限の害虫を放っておく方が危ないです」
「うーん、まあ、そうだな。じゃあ、飼うか。ほら、おいでー」
「プユン!」
「嫌だってさ」
「ダメです。引き摺ってでもうちまで運んでください」
「なあ、こいつ用のエサを毎日持ってくればいいんじゃないか?」
「それだと何かあった時対処できません」
「対処か……。じゃあ、僕の分身をここに配置するよ。それならいいだろう?」
「それだとあなたの分身が食べられる可能性があります」
「そうか。じゃあ、食べ物でこいつをうちまで誘導しよう。おーい、ウメー。こっちにおいしいものあるぞー」
「ウメ?」
「蠢くものって通称だし、なんか呼ばれてもあんまり嬉しくない名称だし、しかも薄気味悪いから呼びやすい名前を今考えたんだよ。ウメー、こっちおいでー」
「なるほど。そういうことでしたか。では、私も。ウメー、こっちおいでー」
「プユン!!」
「あっ、こっち来た」
「ガブッ!!」
「いろんな肉があるのにソーセージに齧り付いたな。好きなのかな?」
「なるほど、ウメさんはソーセージが好きなんですね」
「童子ー、それ人前で言うなよー」
「はい」
「ウメー、ソーセージうまいかー?」
「プユン!」
「そうかそうか。うまいか。じゃあ、うち来るか?」
「プユン!!」
「え? ソーセージがたくさんあるのなら住みたい? そんなのいくらでも用意してやるよ。ほら、こっちおいでー」
「プユン!!」
「よしよし、ウメはかわいいなー」
「私よりですか?」
「童子もかわいいよ。いつ見てもどこを見ても」
「そ、そうですか。では、帰りましょうか」
「ああ」
「プユン!!」




