糸引き娘
まさか鬼姫のスパルタ指導でフーリン(フリカムイの雛鳥)が自力で空を飛べるようになるとは……。うーん、まあ、危機的状況の方がリスク高いけど成長速度は普通に練習してるより速いからなー。今回はそれが効果的だったんだろう。
「……はぁ」
道端で大きなため息を吐いたものがいる。彼女は糸車で糸を引いている。
「どうしたんだ? 糸引き娘」
「最近、人間たちが私に話しかけてこないんです」
「それは君だけじゃないよ。驚かす系の妖怪のやり口は人間と妖怪と共存することが決まった日にネットで拡散されてるから」
「さすがにそれくらいは知ってますよ。はぁ……昔は良かった」
「君の場合、普通に話しかけられただけじゃダメだからなー」
「そうなんですよー。自分で言うのもあれですけど、私の美しさに見惚れた状態で私に話しかけてくれないと私白髪の老婆になれないんですよー」
「うんうん。で、仕上げに大声で笑い出して相手を驚かせる。これがお約束だね」
「はい、そうです。というか、最近は職質しかされてないです」
「そうかー。あっ、そうだ。君は妖怪になってから糸売ったことある?」
「え? いや、ないですけど」
「そうか。じゃあ、その糸を売ろう」
「別にいいですけど、売れますかね?」
「霊力が込められている糸が売れないと思う?」
「生前よりかは売れると思います」
「そうじゃないと困るよ。よおし、じゃあ、とりあえずそれを妖怪用の服を作ってるやつらのところに持っていってみるよ」
「分かりました。じゃあ、明日までに不良品を処分しておきます」
「それは大丈夫。不良品は僕が良品にするから」
「そ、そうですか。じゃあ、よろしくお願いします」
「ああ」




