月がきれいですね
雅人がバイトから帰ってくると、座敷童子は夏樹(雅人の実の妹)に背中を押された。
「あっ、その……えっと……お、おかえりなさい」
「ただいま。まだ起きてたのか?」
夏樹と白猫は二人から少し離れたところで二人の会話を聞いている。
「え? あっ、はい……。きょ、今日は、その……つ、月がきれいですね」
「ん? ああ、そうだな」
えっと……通じてないみたいですけど、私はこれからどうすれば……。
座敷童子が夏樹の方に目を向けると、彼女はニコニコ笑いながら、白猫を抱きしめた。
それは、つまり……私にそれをしろと?
彼女はコクリと頷く。
そ、そんなことできません。
座敷童子が首を横に振ると、夏樹は拳を前に突き出した。
えっと、当たって砕けろ? いえ、これはとりあえずやってみろ……ですかね。
分かりました、やってみます。
座敷童子は一瞬、躊躇った。
しかし、ここで引くわけにはいかないと思った。
その結果、彼女は彼に抱きついたのであった。
「お、おいおい、急にどうしたんだよ。まさかやつが出たのか?」
※やつとは、Gのことである。
「い、いえ、違います。その……あなたの体温を感じたくなったというか、なんというか」
「そうか。けど、僕はこれから風呂に……」
座敷童子は彼を強く抱きしめる。
「私も一緒に入ります!」
「え? あー、別にいいけど。というか、まだ入ってなかったのか?」
座敷童子はブンブンと首を縦に振る。
「そうか。じゃあ、一緒に入ろう」
「は、はい」
あともう少しだよ! 頑張ってね! 童子ちゃん!
夏樹が親指を立てると、座敷童子は頬を赤く染めながら、それを見た。
彼女はコクリと頷くと、彼と共に風呂場へ向かった。




