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不思議な目覚まし時計

 安眠妖精のアミちゃんは僕の部屋にあるベッドで寝ている。


「暇だなー。読書でもするか」


「キュー!」


「え? 外に出たい? まあ、別にいいけど」


 キュー(丸みを帯びた黒いサイコロ型の固有空間。なぜか自我がある)は僕と違って活発だ。特に休みの日は僕を外に連れ出そうとする。僕は今、キューと共に実家の庭にいる。キューは風と遊んでいる。


「なあ、キュー」


「キュー?」


「お前って……いや、なんでもない」


「キュー!」


「え? 言いたいことがあるなら言えって? うーん、どうしよう。別に今言わなくてもいいことなんだよなー」


「キュー!!」


「え? 気になるから言えって? そうか。分かった。えーっと、だな……お前って本当に僕の固有空間なのか?」


「キュー?」


「なんで今そんなこと言うのかって? それはな……お前からこの世界のにおいがあまりしないからだよ」


「キュー」


「え? 実は少し前から自分が何なのか考え始めた? マジかー」


「キュー」


「なんで謝るんだよ。お前は何も悪いことしてないだろ」


「キュー」


「え? 生みの親に隠し事をするのは悪いこと? そんなわけあるか、別に隠し事の一つや二つあってもいいんだよ。まあ、できれば僕に言ってほしいけどな」


「……キュー」


「え? 僕ならいつでも頭の中を見られるから隠し事なんかすぐバレる? 僕は力を悪事に使うことはないよ。まあ、ちょっと意地悪する時はあるけど」


「キュー」


「え? それはそれでもったいない? まあ、そうだな。で? お前はこれからどうしたいんだ? 自分のことを知りたいのなら協力するぞ」


「キュー」


「え? 最近、自分のことを調べたけど、自分に関する情報がどこにもなかった? そうか。じゃあ、お前は新種の固有空間なのかもしれないな」


「キュー!」


「え? そうだ! そうに違いない!! って? おいおい、お前はそれでいいのか?」


「キュー!」


「そうか。それでいいのか。分かった」


「おっはようございまーす! 安眠妖精のアミちゃん、千年ぶりに熟睡したので完・全・復・活しました!!」


 千年って……逆にすごいな。


「そうか。それは良かった。で? みんなはいつになったら目を覚ますんだ?」


「それはですねー……私にも分かりません!!」


「は? なんで分からないんだよ」


「いや、ほら、自分が寝たことを自覚するのって難しいじゃないですか。なので」


「つまり、お前は寝落ちしたんだな?」


「ええ、まあ。でも、寝る前に目覚ましをセットしたのは覚えてます!」


「目覚まし?」


「はい! まあ、会社から支給された『不思議な目覚まし時計』なので仕組みは私にも分かりませんが、とにかくアラームが鳴ればみなさん目を覚まします!!」


「そうか。で? その不思議な目覚まし時計とやらは今どこにあるんだ?」


「……した」


「え? なんだって?」


「……失くしました」


「そうか……。じゃあ、その目覚まし時計の特徴をだいたいでいいから教えてくれ」


「……あ、あの」


「なんだ?」


「その……怒らないんですか?」


「怒ったら見つかるのか?」


「い、いえ」


「そうか。だったら、早く教えてくれ」


「は、はい! えーっと、ですね……」


 あっ、カラスだ。ん? なんか咥えてるな。何だろう、アレ。


「あー! アレです! 私が失くした不思議な目覚まし時計は!!」


「え? アレ? ただの小さめの目覚まし時計にしか見えないぞ?」


「アレは安眠妖精が触らないと効力を発揮しないんです! とにかく早くカラスを捕まえてください!!」


「もう捕まえたぞ」


「え!? あれ!? どうしてさっきまで空を飛んでいたカラスがあなたの腕の中にいるんですか!?」


「こいつと僕がいる空間を繋げただけだよ。ねえ、カラスくん。物々交換しようよ。僕はこのおいしそうなトマトを君にあげるから君は君が持ってるその時計を」


「カーッ!!」


「そうか。嫌なのか。じゃあ、君ごといただこうかな」


「……」


 今夜の僕たちのおかずになることを恐れたカラスは目覚まし時計を僕に渡すとおいしそうなトマトを賞状を受け取るように丁寧に受け取った後、物音一つ立てずに飛び去った。


「じゃあなー、賢いカラスー。はい、これ」


「あっ、ありがとうございます。えっと……あー、あと一時間でアラーム鳴りますね」


「そうか。じゃあ、それまでゆっくりしていくといいよ」


「……あ、あの」


「ん? なんだ?」


「おそらく私は今日で会社をクビになります。まあ、一応妖精なので森とか山で暮らすことはできるのですが夜は冷えますし猛獣とか妖怪とか人間に襲われる可能性がありますし、それに」


「住む場所が見つかるまでうちに住んでいいよ」


「ありがとうございます! 一生お世話になります!!」


「ああ……って、お前今一生って言ったな?」


「え? だって、ここの結界、地獄の網戸みたいな結界よりしっかりしてるじゃないですかー。なので……ね?」


「はぁ……まあ、また同じ事件起こされても困るからそれでいいよ」


「やったー! ありがとうございます!! 一生お役に立ちます!!」


「おう」


「キュー」


「ん? なんだ? キュー。あー、そうだな、もうすぐおやつの時間だな。何食べたい?」


「キュー!」


「ホットケーキか。いいな、そうしよう」


「あ、あのー」


「ん? なんだ? アミ」


「わ、私もホットケーキ食べたいなー……なんて」


「ああ、いいぞ。たくさん食べな」


「やったー! もうここに永久就職していいですか!!」


「……好きにしろ」


「いいんですか? 今の録音しましたよ?」


「好きにしろ」


「はい! そうします!!」


 はぁ……また変なのが居着くのか……。まあ、別にいいけど。

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