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呪雨 和代

 次の日、僕が自分の教室に行くと例の呪われている女の子(全身に包帯を巻いている)が僕の席に座っていた。


「あの、そこ僕の席なんだけど」


「すまない。だが、私の中の呪いたちがお前の席以外に座りたくないと言っていてな」


「それは建前だろ」


「その通り。本当は呪いたちを脅してお前の席まで案内させたんだ」


「そうか。あっ、そうだ。できたぞ、お前を助けられる拳法」


「ん? できた? 私がお前に依頼したのは昨日だぞ? それに拳法とは一朝一夕で習得できるものではないだろう?」


「そうだな。まあ、細かいことは気にするな。師匠が色々準備してくれてたおかげで僕は君を助けられる拳法を習得できたんだよ」


「そうか。まあ、そういうことにしておこう。では、屋上に行こうか」


「屋上に何かあるのか?」


「物が少ないからいいんだよ」


「まさか屋上で包帯取るのか?」


「取らないと呪いを解けないだろう?」


「いや、でも……」


「私は人間より呪いに近い存在だからな。誰かに自分の裸を見られてもなんとも思わない」


 フラグかな?


「そうか。じゃあ、行こうか」


「ああ」


 屋上……。


「シュルシュルシュル……っと。おーい、包帯取ったぞー」


「お、おう」


「おい、お前はなぜ私に背を向けているんだ?」


「いや、君は一応女の子だろ? だから」


「さっきも言ったが、私は誰かに自分の裸を見られても気にしない。だから、大丈夫だ。さぁ、こっちを見ろ」


「わ、分かった」


 うーん、容姿は夏樹なつき(僕の実の妹)の身長だけ伸ばした感じだな。実は私は中学生なんだって言われても違和感ない。もしかして呪いがそういう風に設定しているのかな?


「どうした? 欲情したのか?」


「いや、してない。ほぼ毎日妹と風呂に入ってるから」


「何!? それは本当か!!」


 あー、しまった。余計なことを言ってしまった。


「あ、ああ」


「そうか……羨ましいな」


「え?」


「いや、なんでもない。それより早く私の呪いを解いてくれ」


「分かった」


 地球拳を誰かに向けて放つのは二回目になるな。失敗は許されないが、あまり意識しすぎると微調整ができなくなるからリラックスした状態で放つとしよう。僕は深呼吸してからゆっくり構えた。


「じゃあ、行くぞ」


「ああ」


「地球拳……治癒の型……『分離突き』!!」


 よし、今ので悪い呪いだけ彼女から離れた。あとは。


「地球拳……撃滅の型……『清廉潔白』!!」


「おお! 邪悪な呪いたちが浄化されていく!! これが地球拳の力か!!」


「あ、あの……そろそろ服を着たらどうだ?」


「ふむ、そうだな。あっ……」


「どうした?」


「いつも呪いが服を作ってくれてたから着るものが何もない!」


「そうか。じゃあ、今からここと君の部屋をゲートで繋ぐよ」


「そんなことできるのか?」


「まあ、一応」


「そうか。では、頼む」


「分かった。じゃあ、君の部屋を思い浮かべてくれ」


「分かった」


「……えーっと、あー、ここか。はい、繋がった。始業のチャイムが鳴るまでまだ時間あるから急がなくていいよ」


「分かった。ありがとう、雅人まさと


「どういたしまして」


 僕は彼女が着替え終わるまでゲートの外で見張りをしていた。


「おまたせ。どうだ? 私の制服の姿は」


「うーん、なんかスカート短くないか?」


「ん? あー、たしかにこれは短いな。教えてくれてありがとう」


「どういたしまして」


「あっ、そうだ。まだ自己紹介してなかったな。私の名前は」


「……お兄ちゃーん! 忘れ物届けに来たよー!!」


「忘れ物? あー、箸箱か。ありがとう、夏樹なつき


「どういたしまして! で? この人、誰?」


「私は『呪雨のろう 和代かずよ』。先ほど雅人まさとに裸を見られた者だ」


「あっ、そう。ねえ、お兄ちゃん! 今日、お兄ちゃんの膝の上でお昼ごはん食べていい?」


「うーん、まあ、屋上でなら……いい、かな?」


「やったー! お兄ちゃん、大好きー!!」


「こらこら、あんまり学校でくっつくな」


「えー、別にいいじゃん、これくらい」


「なあ」


「あれ? あんた、まだいたの?」


「まあな」


「で? 何? あと、お兄ちゃんは私のものだから」


「知っている。だが、この胸の高鳴りはおそらく恋だ。なあ、雅人まさと。私はお前のことが好きなんだ。だから、頼む、愛人でも秘書でも部下でも奴隷でもメイドでも物扱いでもいいから私をお前のそばに置いてくれないか?」


「だってさ、どうする? お兄ちゃん」


「そうだな……じゃあ、うちの部の部員になれ」


「はい! 喜んで!! それで? 私はこれから何をすればいいんだ?」


「そうだな……じゃあ、放課後になったら今から紙に書く組織に潜入してそこに何があるのか全て記録してきてくれ。あー、もちろん君の中にいる『いい呪い』たちの力を使ってもいいよ」


「了解した。あっ、そうだ。この任務が成功したら何かご褒美を」


「自らフラグを立てるようなやつにそんなものはない」


「いい! 実にいい! 特にその冷たい眼差しが私を高揚させる!! あー、満たされた。ありがとう、雅人まさと。これからもその調子で私をいじめてくれ」


「分かった。では、時が来るまで解散」


「了解!」


「……何? あれ? マゾなの?」


「ずっと呪われてるからな、何かに縛られてないと落ち着かないんだろう」


「なるほどねー」

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