ほんの少しだけ後悔してる
今回の誘拐事件の犯人は『はじまりの吸血鬼』が生み出した『門』(正式名称ミステリアスゲート)と呼ばれる生命体の仕業だった。ちなみに僕たちを謎の赤い空間に招き入れた門はメスだったらしい。
誘拐された者たちは僕たちとは違う空間にいた。全員血を一滴だけ取られていただけで大きなキズはなかった。
なぜ門たちはさまざまな種族を誘拐したのか。それについてはアリシア・ブラッドドレインが教えてくれた。どうやら『はじまりの吸血鬼』は今日に至るまでずっと何かを探しているらしい。それが何なのかは本人にしか分からないが、だいたい予想がつく。彼女はきっと孤独が苦手なのだ。だから、門たちを使って探しているのだ……理想のパートナーを。
バトルロイヤルでのアリシアの行動は今思い返すと一応一貫していた。彼女はずっと『僕の護衛をしていた』のだ。ルール上最後の一人になるまで戦い続けなければならないため、参加者たちの注意を引くためには自分を標的にする以外方法がなかったのだ。そんなことしなくても僕とアリシアが共闘すればよかったのではないかと思ったが、彼女はあの時僕の護衛だったから僕を戦わせまいと頑張ってくれたのだろう。だが、あんなことはもう二度とやってほしくない。僕たち遺されるのはごめんだ。
え? 僕がアリシアの眷属になったのかって? えーっとねー、それはこれから分かるよ。
「なあ、アリシア、大丈夫か? あの戦いが終わってから……いや、僕の血を吸ってからお前ずっと変だぞ?」
「ち、近づくな! お前がそばにいるだけで頭がおかしくなりそうなんだ!!」
「一応、僕はお前の眷属なんだからお前のそばにいないとまずいだろ」
「そ、それはそうだが……」
「それより定期的に僕の血を吸わなくていいのか? 契約の時以降、全然吸ってないだろ?」
「う、うるさい! お前には関係ない!!」
「いや、関係あるだろ。僕はお前の眷属なんだから。ほら、早く吸えよ。ガブッ! とか言いながら」
「そ、そんなことできるかー! 雅人のバカー!」
「あっ! ちょ、待てよ! アリシア! どこ行くんだよ!」
「お前がいないところだー!!」
「そうかー。分かったー」
「雅人さん、あなたは彼女の苦しみを知っていながらなぜあんなことをするのですか?」
僕の家の玄関に現れた座敷童子の童子は僕にそう訊ねる。
「うーん、そうだなー。ほんの少しだけ後悔してるから……かな」
「後悔……ですか」
「ああ。もしかしたら僕の血を吸った吸血鬼が僕より上位なら僕を操り人形にできるかもしれない……。僕はあの日、あの場所でそんな期待をしていたんだよ。でも、結果は見ての通り。僕はなんともないのにアリシアだけ僕のことが好きで好きでたまらなくなってる。あれじゃあ、どっちが主人だか分からないよ。……なあ、童子」
「なんですか?」
「僕はいったい何なんだろうな」
「それは私が知りたいです」
「そっかー。そうだよなー。さてと、それじゃあ、アリシアを探しに行くかな」
「お気をつけて」
「ああ」
アリシア、今お前を失うわけにはいかないんだ。だから、常時発情してても僕の主人でいてくれ。




