黒髪のガーディアンちゃん⭐︎
夏樹(僕の実の妹)に勝てる可能性がある人物はいるのか? と問われたら僕はきっとこう答える。僕と夏樹の母親と『はじまりの針女』(彼女の欠片が夏樹の体内にある。だから、強い)なら勝てそうだと。え? 僕? うーん、そうだなー。勝てるかもしれない、かな?
「……つ、強い……。強すぎる」
だろうな。この世のどんな金属も夏樹が硬化させた黒い長髪の前では豆腐みたいなものだし、それが頭に何万本と生えているし、しかもやろうと思えばどこまでも伸びるし、さらにダメージやら技の衝撃やら技の効果やらを無力化できるから絶対敵にしたらダメなんだよなー。
「こんなものか、天王星の女王の力は」
「……よ」
「え? なんだって?」
「さっさと兄離れしなさいよ。じゃないとお兄さん、いつまでも結婚できないわよ」
「あんた、何言ってるの? お兄ちゃんの結婚相手は私以外にいないわよ?」
「は? いやいやいや、あなた実の妹なんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、結婚できないじゃない」
「今の日本だとできないわね」
「でしょ? だったら私に彼を譲ってよ」
「そんなことしたらお前の星粉々にするよ?」
「あ、あなた天王星がどこにあるのか知ってるの?」
「知らない。だから、お前を死の一歩手前まで追い込んで吐かせる」
「こわっ! 何こいつ! ねえ、あなたこいつの実の兄なんでしょ? どんな教育したらこうなるの!?」
「どんな教育をしても僕がいる限り夏樹はずっとこのままだよ」
「そ、そんな! じゃあ、こいつを消すにはあなたを消さないといけないってこと?」
「まあ、そうなるな」
「そ、そんな……。どうして……どうしてこんなことに」
「どうして? お兄ちゃんに惚れた時点でお前は敗北してるんだよ」
「わ、私はまだ負けてない! 私はまだやれる!!」
「なあ、お前は自分の内臓を全部取り出してじっくり眺めたことはあるか?」
「……え?」
「質問に答えろ」
「そ、そんなことしたことない。というか、するわけない」
「そうか。じゃあ、今から手術するからそこでじっとしててくれ」
「や、やだやだやだ! 怖い怖い怖い! やめて! こっち来ないで! 何をされても死ねない体にそんな残酷なことしないで!!」
「残酷? お前が私からお兄ちゃんを取るってことはつまりそういうことなんだよ」
「あ、あんた、何、言ってるの?」
「私にとってお兄ちゃんは内臓のようなものだ。ないと困るし、取られるのはもっと困る。まあ、私の心臓の半分はお兄ちゃんのものなのだがな」
「り、理解はできる。でも、あんたが実の兄に執着する理由が分からない」
「なんだ、そんなことか。それはな、私にはお兄ちゃんしかいないからだよ」
「りょ、両親がいるじゃない」
「私たちを家に放置して海外で仕事してるやつらのことを愛おしいとは思えないな」
「と、友達は?」
「基本的に女の敵は女、男は下心丸出しだからな、友達は少ない。そして私の場合、残念ながら友達は一生友達止まりだ」
「ど、動植物とかは?」
「やつらに私は満たせない」
「い、いつか運命の人が現れるんじゃない?」
「いつかって、いつだ? 今日か? 明日か? 私の死の直前か? そもそも神に近い存在になりつつある私と一生一緒にいてくれるやつなんてこの世に存在するのか?」
「あー、うーん、神様とかなら可能性がちょこっとありそうかな」
「私より弱い神はダメだ。同等かそれ以上がいい」
「太陽神は?」
「私より弱い」
「え? いや、太陽神だよ? 火の神とかじゃないよ?」
「やつは私より弱い。三種の神器を使ってもおそらく私には勝てない」
「えー。というか、戦ったことあるんだー」
「お兄ちゃんを誘拐したやつのことは一生忘れない」
「え? それホント?」
「本当だ。ねえ? お兄ちゃん」
「ああ」
「そっかー。太陽神に誘拐されたことあるのかー。なんかますます欲しくなってきたなー」
「ダメだ、お兄ちゃんは誰にも渡さない」
「そっか。じゃあ、今回は嫁候補に立候補するだけにしておくよ」
「お兄ちゃんと戦わなくていいのか?」
「ええ。というか、最初から戦うつもりなんてないわよ。だから、今回は引き分け。それでいいわよね? 雅人」
「ああ、いいぞ」
「よし、これで今回の一戦についての話は終わりだね。でも、私はあんたの……いや、あんたたちの恋敵になるから、みんなに伝えておいてね。黒髪のガーディアンちゃん⭐︎」
「分かった」
「あー、あと今回勝てなかったから星に帰りづらいんだよねー。ねえ、しばらく二人のおうちに泊めてくれない?」
「僕はいいけど、夏樹が」
「いいよ。ただし、夜這いとかしたら殺す」
「そ、そんなことしないよー、多分」
「あぁん?」
「あー! ウソウソ! 絶対しないから! 約束する!」
「嘘ついたら針山地獄の針で蜂の巣にしてやる」
「こわっ! ねえ! 雅人! こいつ、ホントにあなたの妹なの!?」
「まあ、一応」
「そっかー。でも、私と雅人が結婚したら、あんた私の義理の妹になるのよねー」
「どうやら今すぐ地獄に落ちたいようだなー」
「きゃー! 夏樹ちゃんが怒ったー! 逃げろー!」
「待てー」
声ひっく。夏樹ってあんな声出せたっけ? まあ、いいや。とりあえずほぼ血を見ることなく終わったから良しとしよう。




