正座
僕は座敷童子になぜ今朝から機嫌が悪いのか訊いてみた。
「なあ、童子。どうして今日は僕とまともに口を聞いてくれないんだ?」
座敷童子は僕から目を逸らしながら、こう言った。
「……ません」
「え? なんだって?」
彼女は僕の方を向くと、大声でこう言った。
「分かりませんよ! そんなこと! それに原因が分かっていたら、こんなことにはなりません!」
「それはまあ、そうだな。えっと、とりあえず落ち着けよ。な?」
僕が彼女の頭を撫でようとすると、彼女はそれを振り払った。
「気安く触らないでください!」
「あー、すまん。嫌だったんだな。次からは気をつけるから、今回は許してくれ」
今日はやけに感情を露わにするな。
何か変なものでも食べたのかな?
「え? あー、はい、許します」
「それで、その……なんだ。どうして僕を避けるんだ?」
それくらいは分かるんじゃないかな?
「それは……その……あなたの顔を見たり、声を聞いたりすると、胸が苦しくなるからです」
「なんだって!? それを早く言えよ! 何かの病気かもしれないじゃないか!」
なんということだ。まさか座敷童子がそんなことになっていたなんて。
「お、大袈裟ですよ」
「何を言ってるんだ! 病気を治すには早期発見と早期治療が基本なんだよ!」
それくらい知ってますよ。
「私は病気じゃないです」
「なら、その証拠を見せてみろよ」
証拠……ですか。
「じゃ、じゃあ……その……わ、私の心臓の音を聞いてみてください」
「分かった」
え? ちょ、ちょっと、まさか本気でやるつもりじゃ。
彼が彼女の心臓の音を聞こうとすると、彼女はその場から逃げ出した。
「あっ! こら! 待て! 逃げるな!」
「嫌です! ついてこないでください!」
そんなこと言われても、僕はお前の心臓の音を聞くまでお前を追い続けるぞ!
「待てー!」
「嫌ですー!」
二人は家の中をドタドタと駆け回る。
そのせいでほこりが巻き上がる。
「二人ともいい加減にしてよー!」
夏樹(雅人の実の妹)がそう言っても、二人は止まらない。
「もう怒った! 二人とも……止まれー!」
夏樹の黒い長髪が二人を拘束すると、二人をそのままの状態で夏樹の元へと運んだ。
「二人とも! そこに座って!」
「いや、拘束されてるから座れないんだが」
夏樹は「あっ、そうか」と言うと、二人を解放した。
二人が正座をすると、夏樹は胸の前で腕を組んだ。
「二人とも、しばらくそのまま正座してて」
「あのー、僕、このあとバイトが……」
夏樹はニッコリ笑うと、彼にこう言った。
「じゃあ、それまで正座ね」
「あっ、はい、分かりました」
二人はしばらくの間、正座をしていた。
その様子を見ていた白猫はクスクス笑っていた。