どうしてそこまで勝ちにこだわるんだ?
まったく、いきなり地球の何倍もある木星の磁場を発生させるなよ。キュー(丸みを帯びた黒いサイコロ型の空間。なぜか自我がある)がいなかったら今頃地球は大変なことになってたぞ。
「……私は……負けられない」
「どうしてそこまで勝ちにこだわるんだ?」
「それは……敗北すると全てを失うから」
「木星にはそんなきまりがあるのか?」
「多分ない。でも、私の家は昔からそうだった」
「すごい家だな。僕の家とは正反対だ」
「え?」
「あー、いや、その、僕の母親は有名なモデルだからいつも家にいないんだよ。会えるのは年に数回程度。ちなみに父親は母親が着る服を作ってる人だからいつも母親と一緒にいるぞ」
「……放任主義ってやつ?」
「いや、まあ、夏樹が……僕の妹が両親より僕を選んだというか、昔からベッタリだったから両親はそれを察して僕に夏樹を任せたんだよ」
「家事はどうしてるの?」
「小さい頃に叩き込まれた」
「誰に?」
「いろんな人に」
「そう。でも、私は負けられない。負けちゃいけないの」
「なあ、木星の女王」
「何? 命乞いでもするつもり?」
「そんなことしないよ」
「じゃあ、何?」
「今からお前の家に行ってもいいか?」
「はぁ? 最弱なんかを家に呼ぶわけないでしょ?」
「その最弱に負けそうになってること、お前の両親知ってるんじゃないんか?」
「うっ……! そ、それは……」
「あのさー、とりあえずお前はどうしたいんだ? いつまでも親の顔色を窺いながら生きていくのか? それとも自立するのか?」
「……そんなこと考えたこともなかった」
「考えさせないようにしてたんだなー、きっと」
「え?」
「詐欺とかでよくあるんだよ、自分が騙されているかもしれないと考える隙を与えずマシンガントークで相手を焦らせる方法」
「そうか。じゃあ、私は自由に生きていいの?」
「お前の人生だろ。お前が決めていいんだよ」
「分かった。じゃあ、今から家に帰る」
「おう、頑張れよ」
「最弱……あなたも一緒に来て」
「……え? いや、僕は部外者だから」
「じゃあ、早く私を倒して」
「え?」
「あなたが私を倒せば私の両親はきっとあなたをロックオンする。今回はそれをエサにする」
「なんで僕が生き餌にならないといけないんだよ」
「あなたが私に本気を出させた最初の人だからだよ」
「そうか。じゃあ、『喪失斬』を使うぞ」
「うん、早くやって」
「分かった」
僕はそれで彼女の本気を斬った。
「はい、おしまい。じゃあ、今から木星に行くか」
「うん」
「えーっと、ここからどれくらいかかるんだっけ?」
「私と一緒だから一瞬だよ」
「そうか、それは助かるな。じゃあ、よろしく頼む」
「分かった。それー」
あっ、今ので瞬間移動するのか。ふーん。




