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褒美だ、受け取れ

 こいつ、なんでここまで必死になってるのかなー。


「ねえ、一つ質問してもいい?」


「なんだ!」


「あんた、なんでそこまで勝利にこだわるの?」


「……水星に住む者たちの期待を裏切れないからだ」


「ふーん。で? 本音は?」


「……水星には私より強い男がいない」


「はぁ?」


「それに私は星の王の中でそこまで強くない。最弱ではないが限りなく最弱に近い」


「ふーん、で?」


「だから、要するに……私が勝てそうかつ私の夫になってくれそうな星の王が地球にいることを知って……秒で来たというわけだ」


「素直でよろしい! でも、それを水星の人たちが知ったらどう思うのかなー?」


「や、やめろ! それは言うな!! いや、言わないでください!!」


「だったらさ……頭下げなよ、女王様ー」


 こ、こいつ!!


「許さん! お前だけは絶対に許さん!!」


「あっ、そう。でも、あんた、あたしより遅いじゃない。どうやって勝つの?」


「忘れたか? ここは私の星界だ。私の好きなようにできる。つまり! 今すぐお前の重力を百倍にすることが可能なのだ!! 落ちろ! 悪鬼!!」


「……だから、どうした?」


「……!!」


 こ、こいつ! さっきより速い!!


「あははははは! ねえ? もうおしまい? もっとあたしを楽しませてよ!! 女王様!!」


「黙れー!!」


 はぁ……もうそろそろだなー。


「デコ、ピン!」


「クッ……! ま、まだだ! まだ!!」


「ううん、終わりだよ。はい、手鏡」


「どうした? 急に」


「いいから自分の顔を見てみなさいよ」


「わ、分かった。う、うーむ、これは酷いな。顔のあちこちにヒビが入っている」


「顔だけじゃないわ。首、腕、胸、腹、足……あちこちボロボロよ」


「そうか……。そうだな。だが、それがどうした? 私はまだ負けていないぞ?」


雅人まさと、とどめはあんたが刺しなさい」


「いいのか?」


「あんたじゃなきゃダメなのよ」


「そうか、分かった」


「最弱のお前が私にとどめを刺すだと? ふざけるな! 私は水星の女王だぞ!! 何もかもお前より遥か高みに」


「もういいんじゃないかな」


「何?」


「負けるとか勝つとか弱いとか強いとか、もういいじゃないか」


「お前、何を言って」


「君はこのままだと確実に死ぬ。だから……」


「ま、待て! 来るな……来るなー!!」


「……僕はこの戦いに終止符を打つよ」


「やめろー!!」


「……『終戦』」


「……!!」


 ああ……戦いが……終わってしまった……。いや、違うな。私は誰とも戦ってなどいない。最弱はもちろん悪鬼もほとんど自衛の技しか使っていなかったのだから……。


「……ここ、は」


「僕の部屋だよ」


「そうか。なあ……私は……負けたのか?」


「そんなのどうでもいいよ。それより体の調子はどう?」


「……一人にさせてくれ」


「分かった」


「待て。そばにいろ」


「えーっと……」


「そばにいてくれ、頼む」


「僕がそばにいてもいいの?」


「ああ」


「どうしてだ?」


「女王命令だ。私のそばにいろ」


「承知しました」


「うむ、それでいい」


 水星よ、笑いたければ笑え。私は今から水星の女王ではなく、普通の女の子になる。


雅人まさと……」


「なんだ?」


「私と共に生きてくれないか?」


「それは命令か?」


「違う。提案……いや、お願いだ。私と真正面から向き合い、受け止めてくれたのはお前しかいない。だから」


「ライバルは多いし、みんな強いし、しかもほとんどこの家にいるけど大丈夫そう?」


「それくらいがちょうどいい。さぁ、雅人まさと。これを受け取ってくれ」


「これは?」


「水星の女王に勝利した証だ」


「そうか。でも、僕にそれを受け取る資格はないよ」


「なぜだ? お前は私に勝ったではないか」


「僕一人では勝てなかったからだよ」


「そうか。では、代わりにお前が必要な時に私の力を使えるようにしてやろう」


「いいのか?」


「もちろんだ。さぁ、手を出せ」


「分かった」


「……褒美だ、受け取れ」


「ありがたき幸せ」


 水星が最弱に負けたか。じゃあ、次は私の出番ね。

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