願望
昼休みになったため、座敷童子が作ってくれた弁当の中身を食べ始めると、やつがやってきた。
「今日も雅人の弁当は豪華だねー。少し分けてよー」
『百々目鬼 羅々』は彼の幼馴染である。
「ダメだ。というか、今さっき速攻で昼ごはん食べてただろ?」
彼女はニコニコ笑いながら、僕の方を見ている。
「なんだよ、僕に何か用事でもあるのか?」
「べっつにー。ただ、なんかまた悩んでるんだなーって思って」
こいつはエスパーか?
いや、百々目鬼だ。
多分、また何でも見通せる目の力を使ったんだろう。
「別に悩んでなんかないよ。ちょっと気になってることはあるけど」
「ほーら、やっぱりあるじゃん。私で良ければ話聞くけど、どうするー? やめとくー?」
うざい……けど、こいつは悪いやつじゃない。
昔からそうだ。こんな感じで僕に話しかけてきて、僕はいつもこいつのペースに……。
「これは友達の友達の話なんだけどさ……」
「うんうん」
僕は彼女に今朝のことを話した。
座敷童子の機嫌が悪かったことについてだ。
あと、例の白猫の件も。
「うーん、それは多分、嫉妬だよ」
「嫉妬?」
けど、それだと座敷童子が僕に少なからず興味があるということになるぞ?
「うん。だって、そうでしょ? 急にやってきたその白猫がその座敷童子のポジションを取っちゃったんだから」
「ポジションって。お前な……」
しかし、意外と当たっているかもしれない。
今朝のあの態度。
明らかにおかしかった。
いつも冷静で何を考えているのか分からないのに、今朝はよく分かった。
なんだか機嫌が悪そうだな、と。
「だからね、雅人は昨日の分の埋め合わせをすべきだよ」
「埋め合わせね……」
あいつは僕に何をして欲しいんだろう。
「具体的には頭を撫でてあげたり、ギュッて抱きしめてあげたり、一緒に寝てあげたりしてあげると、いいと思うよー」
「それ、お前の願望そのものだろ?」
彼女はニコニコ笑いながら「まあねー」と言った。
まったく、こいつはいつもいつも適当なことを言っているようで割と僕のためになることを言ってくれるな。
「なるほどな。ありがとう、参考にさせてもらうよ」
「それは良かった。じゃあ、相談料ちょうだい」
は?
「お前な……」
「冗談だよ、冗談。でも、ちょっとは感謝してほしいなー」
はぁ……まあ、それくらいはしてもバチは当たらないよな。
「お礼に、この卵焼きをやるよ。ほら、あーん」
「わーい! ありがとう!」
彼女は嬉しそうに卵焼きを口の中に入れた。
その直後、彼女は満足そうな声を出した。
「お前って、いいやつだよな」
「え? 何? 今、なんか言った?」
お前はその年で難聴なのか?
「何でもないよ」
「そう? なら、いいけど」
その日の昼休みはそんな感じで彼女と駄弁っていた。