地獄そのもの
僕は地獄の炎でこの町を燃やそうとしている『焼炎姫』を止めるために彼女と共に地獄に落ちた。
「え? な、なんで私地獄にいるの?」
「あんたは地獄から地獄の炎を盗み、それを使って町を一つ燃やそうとした。だから、強制的に地獄に連れて来られたんだよ」
さて、どうする? まだ抵抗する気ならもう手加減はできないぞ?
「ご、ごめんなさい! 私、一度でいいからあなたに会いたくて、つい」
はぁ?
「ん? あんた、もしかして僕のファンなのか?」
「え、ええ、そうよ。ほら、あなたって結構有名じゃない? だから、一度くらい会っておきたいなーって、あとついでにサインもらえるといいなーって」
「サイン? あんた、色紙持てないだろ」
「あっ……」
なぜ気づかないんだ……。
「あー、もういいよ。それは僕がどうにかするから。それより早く地獄の炎を返しに行こう」
「え? あっ、うん、分かったわ」
こいつ、地獄の炎操れるのになんかポンコツ臭がするな。
「あっ! 雅人しゃんだ!」
「ん? 君は誰だ?」
なんでこんなところにウサ耳少女がいるんだろう。
「はじめまして! 私、獄卒見習いのミミです!」
「あー、君か。あの手紙書いたの」
「はい! そうです! ところでそちらのお姉さんは誰ですか?」
「え? あっ、いや、その……」
「僕のファンだよ。あー、そうそう、人間界に持ち出された地獄の炎回収できたよ」
「えー! 本当ですかー!」
「ああ、本当だよ。彼女が僕より先に回収してくれてたんだ」
え?
「へえ、そうなんですかー。ありがとうございます! おかげで助かりました!!」
「え? あー、うん、どういたしまして」
「ということで地獄の炎返すよ。はい、どうぞ」
「ありがとうございます! これで少しだけ地獄の問題が解決しました!」
「おいおい、他にもまだあるのか?」
「ありますよー。死んでも人様に迷惑をかける亡者とかいますからー」
「そうか。だったら、この花の種をそいつの食事に混ぜておくといいよ」
「え? こんなので改心するんですか?」
「ねえ、ミミさん。もし生涯セロトニンを吸収し続ける植物があったらどうなると思う?」
「それは……すごく素敵ですね! さっそくあいつに試してみます! では、私はこれで失礼します!」
「おう」
「……ね、ねえ」
「ん? なんだ?」
「どうしてあんな嘘ついたの?」
「ん? あんた僕のファンなんだろ?」
「そうじゃなくて! 私が……地獄の炎を盗んで人間界で好き勝手してたこと、どうしてあのウサ耳に言わなかったの?」
「あんたが燃やした家が全部空き家だってことを知ってたからだよ」
「でも、私は泥棒だし放火魔なのよ? 私を助けてもあなたには何のメリットもないわ」
「今回はあんたが行動を起こす前に気づけなかった僕の責任だ。あんたは何も悪くない」
「で、でも」
「いいからこれを持ってさっさと失せろ」
「え? こ、これって」
「炎で書いた僕のサインだ。色紙はさっき作った。あっ、水をかけたら消えるから気をつけろよ」
「な、なんで……どうして……」
「僕がこうしないとあんたはまた同じことをするかもしれないだろ? だからだよ」
「あ、ありがとう! 一生大事にする! 家宝にする! あー! どうしよう! 私、今すっごく幸せだよー!!」
「はいはい、そういうのは家に帰ってからにしてくれ」
「あー、うん、分かった! じゃあ、またねー!!」
「ああ、またな」
あれで本当に良かったのだろうか。
「いいんじゃない? 君らしくて」
「……誰だ!」
姿は見えない。声だけ聞こえてくる。うーん、聞いたことのない声だな。
「驚いた。君、私の声が聞こえるんだね」
「まあ、一応。で? あんた、いったい何者だ?」
「地獄そのもの……って言ったら信じる?」
「地獄……そのもの?」




