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焼炎姫

 数キロ先に火柱が見える。間違いないアレは地獄の炎でできている。でも、たしかあのへんは更地だったはず。もしかして僕を呼んでいるのだろうか。


夏樹なつき、お前はここにいろ」


「やだ! 私も一緒に行く!!」


「僕に何かあってもお前が生きていれば勝機はある。だから」


「私が神の力を使えばきっとなんとかなるよ!」


「なんとかならなかったらどうするんだ?」


「そ、その時はなんとかして切り抜けるよ」


「切り抜けられなかったらどうする?」


「ねえ、お兄ちゃん。私って足手まといかな?」


「そんなことはない」


「じゃあ、なんで一緒に戦わせてくれないの!!」


「お前にもしものことがあったら困るからだ」


「私もお兄ちゃんにもしものことがあったら困るよ」


「ありがとう。じゃあ、危なくなったら呼ぶからその時は力を貸してくれ」


「うん!!」


「よし、いい子だ。じゃあ、行ってくる」


「いってらっしゃい! お兄ちゃん!!」


「ああ」


 更地。

 うーん、おかしい。焼き跡がない。もしかしてさっきのは幻覚だったのかな?


「……ねえ、さっきの火柱どうだった?」


「その前に一つ教えてくれ。あんたなのか? 地獄の炎を盗んだのは」


「ええ、そうよ。ねえ、そんなことより早く感想聞かせて」


「なんとも思わなかった」


「え?」


「テーマすら分からなかった。ただそこで燃えているだけで中身がない。ただの火柱だった。あんなのより、ホームセンターとかで売ってる花火の方がきれいだ。ところであんた名前は?」


「『焼炎姫しょうえんき』」


 うーん、聞いたことないな。新種の妖怪かな?


「そうか。じゃあ、さっさと地獄の炎を返してくれ」


「嫌よ」


「どうしてだ?」


「私はね、いろんなものを燃やすのが好きなの。でもね、地獄の炎じゃないと燃やせそうにないやつがいるの」


「へえ、それはいったい誰なんだ?」


「そんなのあなたしかいないわ!! さぁ! 私の炎で死になさい!! 『獄炎弾』!!」


「『氷柱突貫』」


「無駄よ! 氷柱つらら程度で地獄の炎を消せるわけ!」


「消す必要はない。だって、勝手に消えてくれるんだから」


「はぁ? ちょっと、あなた頭大丈夫?」


「大丈夫だよ。ほら、もう消えてる」


「え? う、嘘! なんで! なんで消えてるの!!」


「知りたいか?」


「し、知りたくなんかないわ! 『獄炎牢』!!」


「へえ、地獄の炎で作った牢獄か。しかも脱獄しようと思っただけで燃えるようになってる」


「ええ、そうよ。さぁ? どうする? 降参する?」


「そうだな……じゃあ、こうしよう。『冷鬼召喚』」


「レー!」


「な、何よ! そいつ!」


「こいつは冷鬼れいき。熱を冷気に変えられる鬼だ」


「ふ、ふん! だからってそんな小鬼ごときにその牢をどうにかできるわけ」


「レー!」


「う、嘘……地獄の炎が……冷気になった」


「ありがとう、冷鬼れいき。もう帰っていいよ」


「レー!」


「さて、次はどうする?」


「う、うー! こ、こうなったら!! この町全部燃やしてやるー!!」


 なんでそうなるんだ……。


「そうか。じゃあ、僕はあんたの愚行を止めてやるよ。確実にな」


「や、やれるものならやってみろー!!」


 うーん、なんかやけになってないか? まあ、いいや。とりあえずこの女妖怪を止めよう。

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