空気の扉
山中。
「今から赤い雨を降らせるよ」
「いつでもいいぞ」
「分かった。それー」
ドリーム組の『天操 霞』の技の一つ『赤い雨』。使うと何かが起こるらしいが、何が起こるのかは誰にも分からないらしい。
「どう? 何か起こった?」
「いや、何も」
「そう」
「いや、ちょっと待て。アースちゃん、聞こえるか?」
「うん、聞こえるよー」
「今、僕たちがどこにいるか分かるか?」
「分かるよ。でも、雅人たちが今いる場所は現代の日本じゃないよ」
「どういうことだ?」
「えっとね、パラレルワールドの日本にいる時もあれば過去もしくは未来の日本にいることもあるから多分そこだけ時間や次元がズレてるんだと思う」
「そうか。だから、誰も何が起こっているのか分からなかったのか」
「そういうことー」
「ありがとう、アースちゃん。じゃ」
「どういたしまして」
なるほど。ランダムセレクトが赤い雨の効果か。
「ということで、もう雨降らせる必要ないぞ」
「分かった。あー、スッキリしたー」
「よかったな。技の効果が分かって」
「うん」
「よし、じゃあ、そろそろ帰ろうか」
「待って」
「ん? なんだ?」
「渡したいものがあるから家までついてきて」
「そうか。えっと、お前の家ってどこにあるんだ?」
「空気の中にあるよ」
「空気の中?」
「うん。お母さん、ただいまー」
彼女が空気の扉を開けるとそこには彼女の母親がいた。
「おかえりなさい。あら? 珍しいわね、あなたが友達を連れてくるなんて」
「私の彼氏だよ」
「ちょ、お前な……」
「冗談だよ。お母さん、この人は私の友達。さっき赤い雨の効果を解明してくれたんだよ」
「へえ、そうなの。よかったわね」
「あっ、あと、つまみ食いしないでね」
「大丈夫よ。私、既婚男性にしか興味ないから」
「お母さん。この人、私と同じ高校二年生だけど妻子持ちで星の王だよ」
おいー! 余計なことを言うなー!
「あら、そうなの。ねえ、君。今日、時間ある?」
「あ、ありません」
「そう。あっ、これ、私の連絡先。刺激が欲しくなったらいつでも連絡してね」
「あっ、はい、ありがとうございます」
人妻にロックオンされてしまった。
「え、えっと、こんなことして大丈夫なんですか?」
「夫は好色家なので帰ってくるのは数年に一度です」
「は、はぁ……そうですか」
「お母さん、あいつの話なんかどうでもいいから早くアレ持ってきて」
「え? この人にアレを渡すの? それが何を意味するのかあなた分かってるの?」
「わ、分かってるよ!」
「そう。なら、いいんだけど」
彼女の母親はニコニコ笑いながら二階に向かった。いったい何を渡されるんだろう。




