一人我 雷句
まさか妖怪より依頼人の方が厄介とはな。
「夏樹、あいつは?」
「校内にある桜の木に縛りつけてきたよ」
いいなー。僕も夏樹(僕の実の妹)に縛られたい。髪以外はあまりないんだよなー。まあ、とりあえずあいつをなんとかするかー。
「よくやった。じゃあ、そこまで案内してくれ」
「分かったー」
あっ、いたいた。
「よう、元気か?」
「元気に見えます?」
「見える。あと人質は全員解放したぞ」
「はぁ……そうですか」
「なんでそんなに嫌そうなんだ?」
「僕は一人でいるのが好きなんですよ。なのでわざと百物語に関する本を読んでクラスのリーダー的存在に百物語に興味を持ってもらったんです」
こいつ……。
「そうか。ということは今回の事件の黒幕は君なんだな?」
「首謀者と言ってほしいですね」
「どっちも似たようなものだろ」
「響きが違います」
「そうか。で? 君はこれからどうするんだ?」
「転校しようと思っています」
「ほう」
「止めないんですか?」
「君がそうしたいのならそうすればいい。でも、その程度では君の心の闇は消えないぞ」
「どうすれば消えるんですか?」
「消えない。死んでも消えない」
「なんでこの世にそんなものが存在しているんですか?」
「世界の均衡を維持するのに少なからず必要だからだ」
「そうですか。ところであなたが星の王だという噂は本当ですか?」
「まあ、一応」
「そうですか。では、僕を殺してください」
「理由は?」
「僕の中の闇が、悪魔が……僕を殺そうとしているからです」
「えーっと、それはアレか?」
「中二病ではありません。本当なんです。僕の中のもう一人の僕が僕を殺そうとしているんです。今回の事件もそいつの仕業です」
「君はそいつに責任をなすりつけたいだけじゃないのか?」
「違います! 信じてください! 早くしないと僕は!! あっ! うう……ま、まずい。や、やつが……やつが僕を殺そうとしている! お願いします! 早く僕を殺してください!」
「それはできない」
「なんでですか!!」
「それは……依頼人に死なれたら困るからだ」
僕は依頼人の心の闇を依頼人から引き抜くとマイクロブラックホールを作った。その後、僕はそれをマイクロブラックホールめがけて投げた。
「クソ! クソ!! コロシテヤル! コロシテヤル!!」
「お前の敗因は僕の前に現れたことだ。はっ!!」
「う、うわああああああああああああああああああああ!!」
これでよし。
「おい、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました」
「別に大したことはしてないよ」
「でも、僕が生きている限り第二、第三のもう一人の僕が現れます。僕はこれからどうすればいいんですか?」
「それはこれから一緒に考えていけばいい。というか、君はストレスの発散の仕方が下手だ。まずはそれを自覚しようか」
「うっ! 痛いところつきますね」
「まあ、そう言うな。夏樹、縄をほどいてやれ」
「はーい!」
依頼人は僕の方を見ると申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「君、友達はいるのか?」
「……いません」
「そうか。じゃあ、僕と友達にならないか?」
「え? いいんですか?」
「なんだ? 嫌なのか?」
「いや、その、僕みたいな陰キャといたら絶対変な目で見られますよ?」
「他人の評価をいちいち気にするな。君は君がやりたいことをやればいいんだよ」
「で、でも、それで他人を傷つけてしまうかもしれないじゃないですか」
「その時は僕が殴ってでも君を……いや、お前を止めてやるよ」
「せ、先輩!」
「なんだ? お前、後輩だったのか」
「はい、そうです。あの、勉強とか教えてもらっていいですか?」
「ああ、いいぞ。分かるまで付き合ってやるよ」
「ありがとうございます! 一生ついていきます!!」
「一生って、お前な……。ところでお前、名前は?」
「あっ、僕『一人我 雷句』っていいます」
「そうか。じゃあ、今日からよろしくな、雷句」
「はい!!」
うーん、お兄ちゃんは受けかな? それとも攻めかな?
「夏樹ー、帰るぞー」
「あっ! はーい!!」
うーん、でも、お兄ちゃんそういうの知ってるけど、そういうことをする気はこれっぽっちもないんだよねー。




