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なんで知らないんだよ

 ここか例の教室があるはずの場所は。


「なあ」


「は、はい、何ですか?」


「どうして君だけ助かったのか、教えてやろうか?」


「え? それは僕が一人で家に帰ったからじゃないんですか?」


「違う。君がやつの生き餌だからだ!!」


「やつ? やつって誰ですか?」


「それは……このへんにいる人じゃない何かのことだ! さぁ! 出てこい! 僕が相手だ!!」


 壁から生えてきた無数の腕が僕たちを襲う。これは昨日百物語をしていた生徒たちのものだろうか。まあ、どっちにしろ捕まらないようにしないといけないな。


「た、助けてくださーい! 死にたくなーい!!」


「はぁ……少しは抵抗しろよ。おい! もうこいつは用済みだろ! 連れて行くのなら僕だけにしろ!!」


 無数の腕は依頼人を解放すると僕の体をつかんだ。すると壁に大きな黒い穴が出現した。


「おい、腕ども。あまり強く引っ張るな。自分で歩くから。それと君は僕の妹にこのことを伝えろ!!」


「い、妹? えっと、名前はなんていうんですか?」


 なんで知らないんだよ。世界で一番かわいくて有名な妹の名前だぞ。


夏樹なつきだ! 今すぐ君の全細胞にその名前を刻みこめ! 分かったか!!」


「わ、分かりました。い、いってらっしゃい」


「おう」


 黒い穴を抜けるとそこには教室と一緒に不思議な空間に閉じ込められている生徒たちがいた。


「おい! さっさと生徒たちを解放しろ!!」


「……条件がある」


 姿は見えないがどこかから声だけ聞こえてくる。


「なんだ? 言ってみろ」


「お前の命を寄越せ」


「なんだ? それだけでいいのか?」


「何?」


「というか、命ならここにたくさんあるじゃないか? なんで僕の命が欲しいんだ?」


「そ、それは……」


「僕が生きていると困るやつらがいるから……違うか?」


「ち、違う! 俺はそんなやつら知らない。俺は良質な命が欲しいだけだ」


「良質な命? この世に質の悪い命なんてないんだよ! そんなことも分からないのか! お前は!!」


「な、なんだと! ひ、人質がどうなってもいいのか?」


「人質? そんなのどこにいるんだ?」


「な、何? はっ! い、いない! どこに行った!」


「お兄ちゃーん! 人質全員ここから出したよー!」


「ありがとう、夏樹なつき。さあてと、じゃあ、ここからはお仕置きタイムだな」


「ま、待て! 俺はただ腹が減っているだけなんだ! 腹が満たされれば俺はここから立ち去る。だから!」


「そうか。なら、僕の生命力をくれてやる」


「命はくれないのか?」


「命は一つしかないが、僕の生命力は無限だ。だから、お前が満足するまで僕はお前に生命力を与えることができる。な? 悪い話じゃないだろ?」


「た、たしかに! よし、では、さっそくお前の生命力をもらうとしよう!!」


「ああ、いいぞ。それ! じゃんじゃん食えー!!」


「う、うわあああああ! な、なんだ! この大量の生命力はー! こんなやつがこの世にいるのかー!!」


「なんだ? もうギブアップか? 胃袋小さいなー、なあ? 夏樹なつき


「うんうん!」


「だよなー。おい、もう満足したか?」


「も、もういい。一生分食べた」


「そうか。じゃあ、僕たちはもう行くから」


「ま、待て」


「なんだよ」


「あいつは危険だ。死人が出る前になんとかしてくれ」


「あいつ? あいつってまさか、昨日一人で逃げたあいつのことか?」


「そうだ。あいつだ。あいつの中の闇が暴れ出す前になんとかしてくれ。俺ではどうすることもできない」


 お前、あいつのこと生き餌にしてなかったか? うーん、まあ、いいや。


「そうか。分かった。任せろ」


「ありがとう」


「はいはい。行くぞ、夏樹なつき


「うん!」


 ああ、やはり噂は本当だった。なんだかんだ言いつつ被害を最小限に抑えている。すばらしい、あなたが星の王に選ばれて本当に良かった。

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