君の名前、当てていいかな?
アリシア・ブラッドドレインによる血液占い。その結果はもう少しで分かるようだ。
「……うーむ」
「どうした? 何かよくないものでも見えたのか?」
「いや、そんなことはない。ただ」
「ただ?」
「情報量が多いのだ」
「多いとダメなのか?」
「ダメではないのだが、常人だととっくに自我が崩壊しているレベルの情報量でな」
「何? それはかなり危険な状態じゃないか」
「いや、まあ、なんというか、それはお前のずっとそばにいたからであってだな。あー、つまり、彼女にとってはそれが普通だから特に問題ないのだよ」
「そうか。なら、いい」
「あー、えーっと、他に知りたいことはないか?」
「四文字の名前の吸血鬼が血液占いをすると痒いところに手が届かないレベルの情報が分からないそうだが、それは具体的にはどのような情報が分からないんだ?」
「うーむ、そうだなー。例えば、自分が気になっていることが分からなかったりするな。性癖とか、好きな色とか。あっ、ちなみに我は血を吸いながらそういうことをしたいと思っているが、その前に人間は失神してしまうから困っているのだ。あと、好きな色は黒だ」
「赤じゃないのか?」
「雅人よ、黒というのは全ての色を吸収した最終形態なのだよ」
「お、おう、そうだな。で? 三文字の名前の吸血鬼が血液占いをすると分からない核心っていうのは何なんだ?」
「その血の味だ」
「なるほど。それは吸血鬼にとってはとても重要な情報だな」
「うむ。だから、我は四文字の名前で良かったと思っている」
「そうか。じゃあ、『はじまりの吸血鬼』が血液占いをするとどうなるんだ?」
「全て分かる。『はじまりの吸血鬼』だからな。だが、一つだけ分からないことがあるという噂を聞いたことがある」
「へえ。で? それはいったい何なんだ?」
「それは……我も知らん」
「ええ……」
「あ、あの、私の占いの結果は……」
「まあ、待て。雅人の娘よ。もうじき分かる。おっ、おっー! 来た来た来たー! ほう、ほうほう、む! これは!!」
「なんだ? 何が分かったんだ?」
「雅人の娘よ」
「な、なんですか?」
「お前は今日、雅人に体を洗ってほしいと思っているな?」
「は、はい」
「え? そうなのか?」
「ええ、まあ」
「おっ、まだあるぞ。ふむふむ、お前は今日、雅人と一緒に寝たいと思っているな?」
「はい」
「えっと、それは普通に添い寝したいってことだよな?」
「今はそのようだぞ」
「今は……か」
「べ、別にそれ以上のことなんかしませんよ!!」
「おや? おやおやおや? お前は今すぐ雅人とイチャイチャしたいようだな」
「そ、そうなのか?」
「それは……まあ、そうです」
「ん? これはなんだ? できれば今日の入浴時に雅人に古傷を優しく」
「あー! それは言わなくていいです!!」
「そうか。では、最後にこれだけは言っておこう。雅人よ」
「ん? なんだ?」
「この娘は強く、優しく、賢く、そしてすごくかわいい。お前にはそんな彼女を否定や拒絶、嫌悪等せず正面から受け止めてやってほしい。この娘はお前のことが好きで好きでたまらないのだから」
「分かった。そうするよ。ほら、こっちにおいで」
「お、お父さん……」
「よしよし。よーしよし」
「うう……お父さん……!」
この時代に君が生まれたら今ここにいる少し先の未来からやってきた君はどうなってしまうんだろうね。まあ、一応、解決策はあるからなんとかなるよ、きっと。
「君の名前、当てていいかな?」
「……ダメです」
「そうか。結構自信あるんだけどなー」
「ダメです」
その時の彼女は泣きながら笑っていた。僕は自宅の廊下で彼女が泣き止むまで彼女の頭を撫でながら優しく抱きしめていた。




